日本小児放射線学会雑誌
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第58回日本小児放射線学会学術集会“不断前進 小児放射線学:子どもたちの未来のために”より
小児肝腫瘍の多施設共同研究と遠隔画像診断システムを用いた外科療法レビューの取り組み
菱木 知郎
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2023 年 39 巻 1 号 p. 9-13

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要旨

肝芽腫の多施設共同研究を基盤とする臨床試験において,初診時に正確に腫瘍の進展(PRETEXT)を診断することは患者を正しいリスク群に振り分け適切な治療を行ううえでは極めて重要である.また,外科治療の方針決定にも正確な画像診断が求められる.このため,臨床試験を成功させるためには精細な画像診断に基づく質の高い画像診断が必須となる.近年JCCG肝腫瘍委員会では遠隔画像診断システムを利用した中央画像診断が全例に対して行われ,正確なリスク分類と効果判定が担保されている.さらにこれらの画像情報に基づく外科療法コンサルテーションに取り組んでいる.これらの取り組みは世界に先駆けたものであり,画像診断と外科治療の標準化が求められる今後の国際共同臨床研究において必須のものとなると考えられる.

Abstract

In multicenter clinical trials for hepatoblastoma, accurate PRETEXT is critical for assigning patients to the correct risk groups and providing appropriate treatment. Accurate imaging is also necessary to determine the optimal surgical treatment. Thus, quality-assured radiological diagnoses based on state-of-the-art imaging studies are mandatory for the success of clinical trials. To ensure accurate risk classification and evaluation of response, the JCCG Liver Tumor Committee has recently adopted a teleradiology system for central radiologic diagnosis of all patients. Surgical therapy consultation based on this imaging information is also being undertaken. These efforts are world-leading and will be indispensable in future international collaborative clinical studies in which standardization of diagnostic imaging and surgical treatment is required.

背景

肝芽腫は小児の肝悪性腫瘍の中でもっとも頻度が高く,その多くが3歳までに発症する小児期特有の肝上皮性悪性胎児性腫瘍である.本邦においてその発生数は50例前後と推測され,小児がんの中でも極めて希少であるといえる.肝芽腫の治療成績はこの40年間で飛躍的に向上した.希少腫瘍であるために施設あたりの症例数は極めて少なく,エビデンスの構築が難しいのは他の小児がんと同様である.それにも関わらず多くの患者が長期生存を得るに至ったのは,世界各国・地域で古くから多施設共同研究が行われ,その成果を紡いできたからであろう.本稿では肝芽腫治療の変遷を紹介し,現在の標準治療を概説するとともに,本邦における最近の臨床試験に導入された遠隔画像診断システムを用いた外科レビューの取り組みについて紹介する.

国内外における多施設共同研究の歴史と現在の標準治療の概要

肝芽腫の治療成績は,かつては20%ほどであった生存率がいまや80%をこえ,小児がんの中でも最も予後が改善した腫瘍のひとつである.治療成績向上の要因は複数あり,特に安全かつ効率的な外科治療が可能になったこと,全肝摘出・肝移植が標準的な治療としての地位を確立したことなど,外科療法の進歩は肝芽腫治療予後の改善に大きく貢献した.一方でリスク層別化とリスクに応じた適切な標準治療の確立にもっとも重要だったのは多施設共同研究を軸とするグローバルな規模での密な連携であるといえる.

かつては肝芽腫の治療法は手術のほかになく,完全切除が可能であったごく少数の患者のみが長期生存を得ることができた.しかし1980年代に入ると術後化学療法としてシスプラチン(以下CDDP)やドキソルビシン(以下DOX)が単剤で使われるようになり,その有用性が報告されるようになった.さらには症例報告・ケースシリーズレベルではあるが,切除不能例や初発時遠隔転移を有する例に対して術前化学療法の有効性が報告されるようになった.80年代後半から90年代に入るとヨーロッパ,アメリカでそれぞれ多施設共同臨床試験が開始された.ヨーロッパでは1990–1994年に行われたSIOPEL-1試験で全ての患者に対してCDDPとDOXよりなる“PLADO”を術前4~6コース行ったのちに手術を行う単アーム試験が行われ,5年EFSは66%,OSは75%と改善がみられた1).特に切除可能な肝芽腫の治療成績は良好であったが,遠隔転移を有する症例と切除不能例の生存率は60%未満にとどまった.

一方アメリカではCOG(Children’s Oncology Group)の前身であるPOG(Pediatric Oncology Group)とCCG(Children’s Cancer Study Group)のそれぞれが試験を遂行していた.POGはCDDP,ビンクリスチン(以下 VCR),5-FUを組み合わせたC5Vを5~7コース行うプロトコール研究を行い,一期的切除と術後化学療法の組み合わせでは5年全生存率は90%と良好であったのに対し,切除不能例や遠隔転移を有する症例の予後は変わらず不良であった2).CCGは切除不能肝芽腫/肝細胞癌に対しDOXとCDDPを併用し(PLADOと薬剤の用量が異なるため以下CDDP/DOXと表記する),やはり同様の結果であった3).POGとCCGはこれらの結果を受け,病期I/favorable histologyを除くすべての肝芽腫を対象にC5VとCDDP/DOXの2アームを比較するランダム化比較試験(Int-0098;1989年–1992年)を行った4).病期I/unfavorable histologyと病期II(つまり一期的切除可能な)肝芽腫の5年無イベント生存率はそれぞれ91%,100%と極めて良好であったのに対し,病期III,IVはそれぞれ64%,25%と不良であったが,いずれの病期の患者についても両アームで治療成績には差がなかった.有害事象についてはCDDP/DOXが有意に高頻度に観察された.

これらの研究ではすべての症例に同じ治療を行っていたが,切除不能例と遠隔転移例の予後が明らかに不良であることを受け,SIOPEL-2研究では初めてリスクによる治療層別化を行い,standard risk(SR)とhigh risk(HR)の2つのグループに対してそれぞれ単アーム第2相パイロット試験SIOPEL-2を行った(1995–1998年)5).SRには遠隔転移のないPRETEXT I,II,IIIが含まれ,HRには切除不能(PRETEXT IV)と遠隔転移例が含まれた.

SIOPELグループはさらに,アメリカのInt-0098研究の結果を受け,CDDP/DOXとC5Vに共通して使われるCDDPこそが肝芽腫のキードラッグであると考えた.さらにDOXによる心毒性に懸念があったことから,SIOPEL-2試験はSRグループに対してはCDDP単剤を術前4コース,術後2コース行うデザインのプロトコール治療の単アーム試験としてデザインされた(CDDP-mono).続いて行われたSIOPEL-3(SR)ではCDDP-monoとPLADOのランダム化比較試験が行われ(1998–2006年),3年無増悪生存率はCDDP-monoが83%(全生存率95%),PLADOが85%(全生存率93%)と有意差がなかった一方でGrade 3~4の有害事象はDOXを用いなかったCDDP-monoで少なく,この結果SRに対する標準治療としてCDDP-monoが確立した6).CDDP-monoは現在も低リスク肝芽腫の標準治療に位置づけられている.

一方,HRに対してはSIOPEL-4試験(2005–2009年)で短期間に大量のプラチナ製剤を投与する治療のfeasibilityが検討された7).62例と小規模のコホートではあったものの,3年無イベント生存率は76%と従来の治療成績(SIOPEL-3 HR 65%)から大幅に改善し,特に初発時肺転移を有する症例の生存率が77%(SIOPEL-3 HR 56%)と飛躍的に向上した.現在の高リスク臨床試験にはこのプロトコールの骨格が用いられているが,一方で有害事象が多いことが課題として挙げられている.

肝芽腫の臨床試験における外科療法と画像診断の標準化

肝芽腫の病期分類は一期的切除の出来高で病期を決定するアメリカ型のものと,Couinaudの肝区域に基づいたヨーロッパ型のものが混在し,それぞれのグループで用いられてきた.2010年のGdansk International Pediatric Liver Tumor Consensus Meetingでの合意を経て,ヨーロッパのSIOPELが使用してきたPRETEXT分類が正式に国際的な共通の病期分類として定着した.我が国では1999年にJPLT-28)を開始した時点でPRETEXTを導入していたせいもあり,施設の放射線科医のみならず小児科医・小児外科医にも広く浸透している.PRETEXT分類は,Couinaudの分類により定義される4つの区域(左葉外側区域,左葉内側区域,右葉前区域,右葉後区域)のうち,腫瘍が占拠する区域の数を表したものであり,腫瘍に侵されていない隣り合う二つ以上の区域がいくつ存在するか,によってPRETEXTが決定する.現在PRETEXTおよび付記因子は2017 PRETEXTとしてアップデートされている9)

肝芽腫において腫瘍の完全切除は患者の予後に直結する.化学療法を含む集学的治療が発達した現在においても,手術は依然として肝芽腫の治療の主軸となっている.高難易度肝切除あるいは肝移植など,最近の外科的治療戦略の発展も患者の生存率の向上に寄与していることは前述の通りである.現在,術前化学療法後にも切除不可あるいは困難な症例に対する肝移植は我が国でも保険診療に位置づけられ,標準治療の一環となっている.

日本小児肝癌スタディグループ(JPLT;現日本小児がん研究グループ肝腫瘍委員会)が1999年から2012年にかけて実施した多施設共同前向き臨床試験(JPLT-2)では,361例の登録症例のうち,5例は一度も根治術を受けることなく死亡し,12例は化学療法後も切除不能のままであった8).わが国で肝移植が保険適用となる2010年以前の症例が多かったことも大きく影響していると考えられるが,実際肝移植にたどりつくまでに効果の定まらない化学療法を繰り返され,やがて治療抵抗性を獲得した腫瘍が再増大をきたしたり,あるいは抗腫瘍剤の累積により副作用が重篤となったりする症例が相当数あることも課題として残った.

固形腫瘍の前向き臨床試験の成功にはいくつかの必須条件がある.(1)正確な画像診断に基づいて正確なリスク分類が行われることが挙げられる.(2)正確なリスク分類に応じて定められたプロトコール治療(化学療法・放射線治療)に忠実に治療が行われること.(3)正確な画像診断に基づく至適な時期での最適かつ標準的な外科療法が選択されること.

このように正確な画像診断は質の高い臨床試験を行う上で必須の基盤であると考えられる.JPLT-2研究ではPRETEXTを導入したが,PRETEXTの判定は施設に委ねられていた.このためPRETEXTの正確性には疑義が残る部分もあった.2012年から行われたJPLT-3試験では,患者をリスクに応じて標準,中間,高リスクに層別化し,各々のリスクに応じた治療プロトコールの有効性や安全性が検証された(試験はそれぞれJPLT-3S,JPLT-3I,JPLT-3Hと命名された).この試験では,(1)より正確な画像診断を実現するための中央画像診断によるPRETEXTおよびPOST-TEXT(化学療法後のPRETEXT)判定 (2)切除困難が予想される症例に対して遅滞なく至適な手術が行われるための外科療法コンサルテーション対応およびレビュー の2つの新しい取り組みが行われた.これにあたり,EOB-MRIなど,より正確な病巣の描出が可能となる新しい技術を用いた精度の高い画像診断を導入し,撮像方法についての詳細な指針をプロトコールに記載した.さらに,すべての登録症例について治療施設から試験事務局へ定められたタイミングで撮像されたCTやMRIの画像データを送付してもらい,これをクラウドを用いた遠隔画像診断システム(イーサイトヘルスケア社,東京)にアップロードすることによって高精度の画像を共有できるシステムを構築した(Fig.1).

Fig. 1 イーサイトヘルシケア社が提供する遠隔画像診断システム

MiyazakiらはJPLT-3研究における中央画像診断の有用性について検討しその成果を最近報告した10).施設と中央診断でPRETEXT判定の一致率は70%で,特にPRETEXT III,IVの進行症例で相違が多くなる傾向にあった.一方で付記因子についてはPRETEXTのステージングよりさらに一致率が低く,中央診断がより多くの付記因子を陽性と取っていた.つまり,施設診断では付記因子が過小評価されていたとも言い換えられる.興味深いのは中央診断と施設診断の一致率は年を追うごとに高くなってきているということである.中央画像診断への取り組みは,臨床試験登録症例において質の高い画像診断が得られるという大きなアドバンテージの他に,施設へのフィードバック機能により施設診断の質的向上をももたらすという利点があることもこの研究により明らかとなった.

JPLT-3研究では同じ画像共有システムを用い,移植外科医と小児外科医からなるエキスパートチームにより,切除困難が予想される症例について「外科治療推奨」が行われた(Fig.211).この外科レビューの主たる目的は,切除困難が予想される進行症例について,最終的に肝移植が必要となりそうかどうかを治療早期に見極め,その可能性がある症例については早期から肝移植実施可能な施設にコンサルトあるいは紹介することを促すことであった.JPLT-2研究から,遅滞なく適切な外科治療を受けることが予後改善に必須であることが示唆されたためである.この研究で外科療法のレビューあるいはコンサルト対応をおこなった35例について,全例で遅滞なく肝臓の手術が行われ,このうち6例に対しては肝移植が施行された.JPLT-3研究全体の治療成績は現在解析中であるが,外科療法レビューにより適切な時期に至適な手術を行うことを促す当初の目的は果たせたものと考えられる.

Fig. 2 JPLT-3研究における外科療法コンサルテーション・レビューのフロー

謝辞

JCCG肝腫瘍委員会,肝腫瘍委員会画像診断委員会,肝腫瘍委員会外科治療検討委員会各位に感謝申し上げます.また,試験登録にご協力いただいたすべてのJCCG参加施設に感謝申し上げます.

文献
 
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