2024 年 40 巻 2 号 p. 116-120
Rubinstein-Taybi症候群は,精神運動発達遅滞,幅広い母指趾などを特徴とする先天異常症候群である.過去の報告は患者の成長発達や身体所見に関するものが主であり,頭部MRIにおける一般的特徴に関する文献は少ない.今回,生後早期から正中脳構造に多彩かつ特徴的な異常所見を認めた男児を報告する.
在胎38週2日,出生体重1,954 g.出生時から特徴的顔貌,幅広い両側母趾および足趾のアライメント不整を認めた.頭部単純MRI検査で脳梁低形成,鎌静脈洞の遺残,頭蓋骨膜洞といった複数の正中脳構造の異常を認めた.鎌静脈洞の遺残や頭蓋骨膜洞の存在は正中脳構造の形成異常と関連している可能性がある.Rubinstein-Taybi症候群の診断は臨床所見および遺伝学的検査によりなされているが,今後放射線学的所見の知見を蓄積していくことが,より早期の診断に寄与するものと考える.
Rubinstein-Taybi syndrome is a congenital anomaly syndrome characterized by various features such as mental and motor developmental delay, broad thumbs, and large-sized toes. Reports on patients typically focus on growth and physical examination findings, however, reports on the common characteristics of head MRI findings are limited. We herein report the case of a male infant with diverse and characteristic midline structural brain abnormalities which were identified in the early postnal period.
The patient was born at 38 weeks and 2 days gestation, with a birth weight of 1,954 g. The infant exhibited distinctive facial features, broad bilateral great toes, and the misalignment of the toes from birth. Magnetic resonance imaging of the head revealed hypoplasia of the corpus callosum, persistent falcine sinus, sinus pericranii, and pituitary hypoplasia. The presence of a persistent falcine sinus and sinus pericranii may be related to other midline structural brain abnormalities. While the diagnosis of Rubinstein-Taybi syndrome is typically based on the clinical features and findings of genetic examinations, accumulating knowledge of radiological abnormalities may also contribute to making an earlier diagnosis in the future.
Rubinstein-Taybi症候群(Rubinstein-Taybi syndrome; RTS)は,精神運動発達遅滞,特徴的顔貌,幅広い母指趾,成長障害を特徴とする先天異常症候群である.CREB(cyclic AMP response element-binding protein)結合蛋白質遺伝子(CREBBP)またはE1A-binding protein p300遺伝子(EP300)が原因遺伝子と判明している.頭部MRIにおける一般的特徴は脳梁低形成,小脳虫部低形成であるが,その他の所見については報告が少ない.今回,多彩かつ特徴的な正中脳構造異常を有するRTS症例を経験した.その特徴的身体所見や精神運動発達遅滞に加え,複数の放射線学的頭部異常所見の合併はRTSの早期診断の契機になる可能性がある.
在胎38週2日で出生した男児.
妊娠経過:母親は21歳,1妊0産.自然妊娠.既往歴・内服歴は特記事項なし.妊娠24週頃より超音波検査で−1.5から−2 SDの胎児発育不全(fetal growth restriction; FGR)を指摘されていた.その他,外表奇形などの指摘はなかった.その後もFGR傾向が持続したため妊娠38週2日に分娩誘発し,経膣分娩で出生した.
出生時・入院時現症:出生体重1,954 g(−2.75 SD),身長46.5 cm(−0.91 SD),頭囲29.8 cm(−2.35 SD).Apgarスコア1分値8点,5分値9点.出生直後に啼泣を認めたが弱く,努力呼吸も出現したため酸素投与とマスク加圧による蘇生を要した.低出生体重児および呼吸障害の管理・治療を目的としてNICUに入院となった.出生時から特徴的顔貌(両眼開離,前額部突出,太い眉毛)(Fig. 1a),幅広い両側母趾と足趾アライメント不整(Fig. 1b)および両側停留精巣を認め,RTSを含む何らかの先天異常症候群が強く疑われた.心音は整で雑音は聴取せず,筋緊張は良好だった.
a.顔貌.両眼開離,前額部突出,太い眉毛を認める(保護者の同意を得て掲載).
b.幅広い母趾と,足趾のアライメント不整を認める.
入院時検査所見:入院時の血液検査,胸腹部単純X線写真,頭部および心臓超音波検査では異常を指摘し得なかった.腹部超音波検査で右腎嚢胞を認めた.
経過:NICU入院後も努力呼吸が持続したため新生児一過性多呼吸の診断で非侵襲的人工呼吸管理を開始した.日齢2に人工呼吸管理を終了できたが,哺乳が確立せず誤嚥もみられたことから日齢28まで胃管留置を要した.
哺乳不良の原因精査を目的として日齢27に撮像した頭部単純MRIで脳梁膨大部低形成,鎌静脈洞(falcine sinus)の遺残,頭蓋骨膜洞(sinus pericranii)を認めたほか,小脳虫部低形成も疑われた(Fig. 2).髄鞘化は日齢相当だった.日齢29に施行した自動聴性脳幹反応検査(automated auditory brainstem response; AABR)で両側referとなり,後の精密検査で両側高度難聴と診断された.哺乳が確立したため日齢39に退院した.
a.T1強調画像矢状断:脳梁膨大部低形成,頭頂部の皮下腫瘤(黄矢印)を認める.小脳虫部低形成も疑われる.
b.T2強調画像水平断:鎌静脈洞の遺残(黄矢印)を認める.
生後7か月で施行したマイクロアレイ染色体検査(CGH法)で,16p13.3に約800 kbの欠失を認めた.CREBBP遺伝子を含む領域であり,RTSと診断した.
生後11か月時に経過フォローを目的として頭部単純MRI検査を施行した.脳梁膨大部低形成,鎌静脈洞,頭頂部皮下腫瘤,大脳白質容量低下,下垂体菲薄化といった異常所見は日齢27での検査結果と著変なかった.髄鞘化は月齢相当であったが,大脳白質(特に前頭葉白質)容量低下のため側脳室前角拡大がみられた(Fig. 3).
a.T1強調画像矢状断:下垂体菲薄化および脳梁膨大部の菲薄化が目立つ.
b.T2強調画像水平断:大脳白質容量低下と側脳室前角の拡大を認める.
1歳11か月時の頭部MRVでは,頭頂部皮下腫瘤内に頭蓋内静脈洞と連続していると思われる静脈血流を認めたため頭蓋骨膜洞であると考えられた(Fig. 4).
a.MRV画像矢状断:頭部皮下腫瘤内に頭蓋内静脈洞と交通する静脈血流(黄矢印)を認め,頭蓋骨膜洞と考えられた.
b.Maximum Intensity Projection(MIP)矢状断:頭蓋骨膜洞(黄矢印)を認める.
1歳4か月時点で運動および社会性が生後7か月相当,言語が5か月相当と精神運動発達遅滞を認めている.
RTSはRubinsteinとTaybiが1963年に“Broad thumbs and toes and facial abnormalities”と題して,精神運動発達遅滞,特徴的顔貌,幅広い母指趾をもつ7症例を最初に報告した先天異常症候群である1).発生頻度は報告により異なるが,100,000–125,000出生に1例,知的能力障害の施設入所者の300–500人に1例と推定されている.遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝であるが,ほとんどが家族内発生のない孤発性である.16p13.3に座位するCREBBPまたは22q13.2に座位するEP300が原因遺伝子である.CREBBPはヒストンアセチルトランスフェラーゼであり,RTSはヒストンアセチル化異常症と考えられる2).
RTSでは精神運動発達遅滞が必発で,知能指数(IQ)の平均は35から50程度と低い.さらに,先天性心疾患,先天性鼻涙管閉塞などの眼科疾患,停留精巣などの泌尿器疾患をはじめ,中枢神経を含むあらゆる臓器に先天異常や合併症を有する可能性がある3).
RTS患者における中枢神経の放射線学的所見については,Mishraらが脳梁形成異常の症例を報告している4).また,AjmoneらはRTS患者19人の脳・脊髄MRIについて,低位脊髄円錐(15人),脳梁形成異常(14人),脳質周囲の白質異常(11人)に加え,小脳虫部形成異常(11人),脳幹形成異常(6人),下垂体菲薄化および視交叉槽の拡大(9人),嗅球形成異常(6人)などの,過去にRTSで報告がなかった所見を報告している5).Leeらは,キアリ1型奇形,髄鞘化遅延,脳梁低形成といった脳・脊髄のMRIにおける異常が顔貌や四肢の異常,運動精神発達遅滞とともにRTSの一般的所見であると指摘している6).Ajmoneらは特に,脳梁形成異常,小脳虫部形成異常,脳質周囲の白質異常といった他の遺伝性症候群で一般的にみられる所見が同時に存在するのがRTSの特徴であると述べている5).
本症例では頭部MRIで脳梁形成異常,下垂体菲薄化,大脳白質容量低下を認め,Ajmoneらが指摘したRTSで高頻度にみられる所見と合致していた.また,鎌静脈洞の遺残および頭蓋骨膜洞を認めた.
鎌静脈洞は,胎児期にみられる大脳鎌の2つの硬膜層の間の多数の静脈網の一部が残存して形成されると考えられている.一般的に鎌静脈洞がみられる場合は,脳瘤や脳梁形成異常といった他部位の形態異常を伴っていることが多い7).頭蓋骨膜洞は頭部皮下の血管性腫瘤であり,頭蓋内静脈洞が頭蓋骨の板間静脈を介して頭蓋外静脈と交通をもつ病態である.前頭部正中に多いが,本症例のように頭頂部正中に認めることもある.狭頭症に合併するなど先天的なものの他,自然発生例や外傷後に発生する場合もある8).治療適応は美容的な問題,外傷による大量出血の予防などで決められる9).動静脈奇形や髄膜瘤などのほか,鎌静脈洞の遺残もしばしば合併する.
RTSにおいて鎌静脈洞および頭蓋骨膜洞を報告した文献はないが,今後これらが脳梁形成異常や小脳虫部形成異常に合併していた場合,RTSを疑う契機になり得ると考える.また,本症例の放射線学的異常は主として脳正中に多くみられている.鎌静脈洞の遺残や頭蓋骨膜洞の存在が脳梁や小脳虫部といった脳正中構造の形成異常に関与していることも推測されるが,先行研究はなく症例の蓄積が待たれる.
RTSの診断は,必発である精神運動発達遅滞に加え,主要症状である幅広の母指趾および特徴的顔貌などから臨床診断を行うか,遺伝学的検査で確定診断を行うことが一般的である.Leeらは,RTSの患者は多彩な身体的異常所見に加え,精神運動発達遅滞も必発であるため医学的・社会的な支援の側面からもできるだけ早期に診断することが非常に重要であると指摘している5).本症例では,出生時から認めた複数の特徴的身体所見からRTSを含む何らかの先天異常症候群を強く疑ったが,生後7か月で施行したマイクロアレイ染色体検査まで確定診断には至らなかった.RTS患者の中枢神経における多様な放射線学的異常所見を理解しておくことで,その特徴的な身体所見と精神運動発達遅滞と合わせてより早期に診断を行えた可能性がある.
多彩な正中脳構造異常を認めるRTSの症例を経験した.RTSの一般的な身体所見や精神運動発達遅滞に加え,中枢神経に複数の放射線学的異常所見を認める症例が存在することを理解しておくことで,早期診断に寄与する可能性がある.また,鎌静脈洞の遺残や頭蓋骨膜洞といった脳正中の異常が脳梁や小脳虫部の形成異常に関与していることが推測され,今後症例の蓄積が期待される.
日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.