2024 年 40 巻 2 号 p. 121-127
症例は生後11か月の男児で双胎の第1子であった.双胎の第2子は母乳栄養である一方,本児は人工栄養であり,本児のみ原因不明の発達遅滞を認めていた.母一人で育児をしていたところ,突然の意識障害があり当院へ救急搬送された.来院時,小児Glasgow Coma ScaleはE1V2M1であったが,頭部MRI検査では明らかな異常を認めなかった.入院後,意識状態は改善傾向であったが,第3病日から頻回のけいれんが始まり,第6病日の頭部MRI検査で急性硬膜下血腫と拡散強調画像にて両側側頭葉後頭葉のbright tree appearanceを認めた.養育状況と眼科診察で眼底出血を認めたことから,二相性臨床経過と遅発性拡散能低下を呈する乳児外傷性脳損傷と考えられた.ステロイドパルス療法を行い,臨床的には病前と同等の状態に回復したが,第33病日の頭部MRI検査では多嚢胞性変化を認めた.
The patient was an 11-month-old boy and a first-born twin. The second-born twin was breastfed, whereas the first-born twin was fed baby formula. Unlike second-born twins, first-born twins sometimes have developmental delays of unknown cause. The patient was emergently transported to our hospital after experiencing a sudden impaired consciousness while his mother was attending to her children by herself. Upon arrival, the patient’s Glasgow Coma Scale was E1V2M1, but head MRI showed no obvious abnormalities. However, frequent convulsions began on the third day, and on the sixth day, head MRI revealed an acute subdural hematoma, and diffusion-weighted imaging showed a bright tree appearance in the bilateral temporo-occipital lobes. An ophthalmological examination revealed a retinal hemorrhage. The patient had an infantile head injury with a biphasic clinical course and late reduced diffusion because of how he was being nurtured and the presence of a retinal hemorrhage based on the findings of an ophthalmologic examination. Steroid pulse therapy was administered, and the patient recovered clinically to their pre-illness condition. However, brain MRI on the 33rd day of hospitalization revealed polycystic changes.
近年,乳児期の頭部外傷後に痙攣重積型二相性急性脳症(acute encephalopathy with biphasic seizures and late reduced diffusion; AESD)に類似した臨床経過・画像所見を呈する症例が散見され,二相性臨床経過と遅発性拡散能低下を呈する乳児外傷性脳損傷(infantile traumatic brain injury with a biphasic clinical course and late reduced diffusion; TBIRD)として報告されている1).TBIRDの要因や特徴についての詳細は未だ不明な点が多いが,TBIRDの画像的特徴として初回の画像検査での急性硬膜下血腫の存在が示唆されつつある2,3).今回我々は,初回の画像検査で急性硬膜下血腫の所見はみられなかったが,入院後の経過観察中に急性硬膜下血腫の出現とともにTBIRDの所見をみた一例を経験したので,文献的考察を加え,報告する.
症例:11か月,男児.
主訴:意識障害
現病歴:入院当日,自宅にて母一人で育児をしていた.14時頃,授乳のために起こそうとしたところ反応がみられなかった.呼びかけに反応がなく両眼が左を向いたまま流涎を伴う発作が2回みられたが,いずれも1分未満で自然に止まり,その後に嘔吐があった.母はその時点で救急要請をせず,父へ連絡し,駆けつけた父が本児を起こそうと思い,背部刺激したところ再度嘔吐がみられた.四肢が脱力しており,反応がないため,父が救急要請し,当院へ救急搬送された.
既往歴:2絨毛膜2羊膜性双胎第1子,在胎38週,1510 g(双胎第2子は約2800 g).
他国で出生.本児のみ原因不明の精神運動発達遅滞がみられた.生後6か月で頸定し,11か月時点であやし笑いはあまりみられず,座位をとることはできなかった.複数の医療機関で眼科,耳鼻咽喉科の精査をしていたが異常の指摘はなかった.
家族歴:突然死の家族歴はない.母方祖母が20年前に全盲となった.
入院時現症:心拍数70回/分,血圧165/106 mmHg,体温36.1°C,呼吸数36回/分,SpO2 95%(室内気),体重6.5 kg.Glasgow Coma Scale:E1V2M1.瞳孔は3.0/3.0 mmで対光反射は両側で鈍く,終始閉眼状態であった.病着時,表情は乏しく,弱々しく泣くこともあるがすぐに泣き止み,足底刺激には反応がみられなかった.体幹部・四肢に外傷痕はみられなかったが,右頬部に発赤を認めた.
入院時検査所見:
〈血液検査〉AST 699 U/L(基準値23–51 U/L),ALT 313 U/L(基準値5–25 U/L),LD 960 U/L(基準値397–734 U/L)と逸脱酵素の上昇とグルコース206 mg/dl(基準値70–109 mg/dl)と高血糖を認めた.
また,凝固検査ではDダイマー80.2 μg/ml(基準値0.15–1 μg/ml以下),フィブリノゲン分解産物330.9 μg/ml(基準値1–10 μg/ml以下)と線溶系の亢進を認めた.血液ガス分析では乳酸値66 mg/dl(基準値3.0–17.0 mg/dl)と上昇しており,代謝性アシドーシスを認めた(Table 1a).
a.血液検査所見
項目 | 入院時 | 第2病日 |
---|---|---|
白血球(/μl) | 17400 | 9600 |
ヘモグロビン濃度(g/dl) | 12.9 | 11.5 |
血小板(104/μl) | 28.9 | 18.4 |
血清総蛋白(g/dl) | 6.28 | N.D. |
アルブミン(g/dl) | 4.4 | 3.59 |
AST(U/L) | 699 | 105 |
ALT(U/L) | 313 | 145 |
LD(U/L) | 960 | 342 |
クレアチンキナーゼ(U/L) | 267 | 221 |
クレアチニン(mg/dl) | 0.28 | 0.26 |
尿素窒素(mg/dl) | 11.9 | N.D. |
グルコース(mg/dl) | 206 | 106 |
Na(mEq/L) | 136 | 140 |
K(mEq/L) | 3.3 | 3.5 |
Ca(mg/dl) | 9.9 | 9.3 |
総ビリルビン(mg/dl) | 0.46 | N.D. |
アンモニア(μg/dl) | 44 | N.D. |
乳酸(mg/dl) | 66 | N.D. |
ピルビン酸(mg/dl) | 3.1 | N.D. |
CRP(mg/dl) | 0.02 | 4.76 |
プロトロンビン時間(秒) | 12.1 | 11.5 |
活性化部分トロンボプラスチン(秒) | 26.7 | 29.6 |
フィブリノゲン(mg/dl) | 129.8 | 294.6 |
フィブリノゲン分解産物(μg/ml) | 330.9 | 35.9 |
Dダイマー(μg/ml) | 80.2 | 17.9 |
血液ガス分析(静脈血) | ||
pH | 7.277 | N.D. |
CO2(mmHg) | 39.4 | N.D. |
O2(mmHg) | 58.6 | N.D. |
HCO3(mmol/L) | 17.8 | N.D. |
BE | −8 | N.D. |
Lac(mg/dl) | 60 | N.D. |
b.髄液検査所見
項目 | 入院時 | 第5病日 |
---|---|---|
細胞数(/μl) | 1未満 | 1 |
蛋白定量(mg/dl) | 110 | 17 |
糖定量(mg/dl) | 117 | 69 |
乳酸(mg/dl) | 52.5 | 15.7 |
ピルビン酸(mg/dl) | 2.42 | 0.95 |
N.D.:no data
〈髄液検査〉血性髄液であったが,血液混入髄液としての調整をしたところ有意な白血球数上昇はみられなかった.乳酸値は52.5 mg/dl(基準値3.0–17.0 mg/dl)と上昇を認めた(Table 1b).
〈頭部CT〉左頭頂葉および右頭頂葉の一部が低吸収で皮髄境界が不明瞭となっている(Fig. 1a).
a.頭部CT.左頭頂葉および右頭頂葉の一部が低吸収で皮髄境界が不明瞭となっている.
頭部MRI(入院時).明らかな異常を認めない.
b.頭部MRI(第6病日).拡散強調画像横断像.両側大脳皮質下白質~皮質に高信号を認める.
頭部MRI(第6病日).T1強調画像横断像.左後頭葉背側に急性硬膜下血腫を認める.
c.頭部MRI(第15病日).拡散強調画像横断像.両側側頭葉,後頭葉,頭頂葉の皮質下白質~皮質の高信号は不明瞭化.BTAは消失.淡蒼球に高信号域を認める.
d.頭部MRI(第33病日).T2強調画像横断像.脳実質の軽度萎縮を認める.左側優位の両側側頭葉,後頭葉,頭頂葉に及ぶ高信号域を認める.
頭部MRI(第33病日).FLAIR画像横断像.左後頭葉の一部に低信号域を認める.
〈頭部MRI〉異常を認めなかった(Fig. 1a).
〈脳波〉ヘッドセット脳波にて右中心部に活動性低下(Fig. 2a)と左中心部に1 Hz,50 μV前後の徐波を認めた(Fig. 2b).てんかん発作重積の所見は認めなかった.
a.右中心部に活動性低下部位が目立つ(↓).
b.左中心部に1 Hz,50 μV前後の徐波を認める(▼).
入院経過(Fig. 3):165/106 mmHgの高血圧,意識障害を認めたため,頭蓋内病変を疑ったが,頭部画像検査で有意な異常所見はみられなかった.発達遅滞に加え,高乳酸血症を認めており,ミトコンドリア病を代表とする代謝疾患の存在も考えられた.入院時は原因不明の意識障害に対して,等張液による輸液を行いながら集中治療室(intensive care unit; ICU)で注意深くバイタルサインのモニタリングを行い,意識状態,血液検査のフォローアップを行った.入院翌日にかけて明らかな発作はみられなかった.自発開眼もあり,刺激に対する反応もみられ,意識状態の改善を認めた.血液検査所見も自然経過で改善がみられた(Table 1a).入院翌日にICUを退室し,同日夕方より父が本児に付き添い,経過観察を行ったが,けいれんを認めず,意識状態は良好であり,全身に新たな外傷痕を認めなかった.
しかし,第4病日に口周囲から始まり約1分間で自然終息する全身強直性間代性けいれんが群発したため,フェノバルビタール(phenobarbital; PB)を点滴静注した.PB投与後,同日施行した発作間欠期の脳波検査では律動波は認めなかった.第5病日に維持量のPB内服治療を開始した.同日,再度約1分間の顔面と右上肢の強直間代性けいれんを3回認めたため,再度髄液検査を行った.髄液は無色透明であり,細胞数の上昇はなく,髄液乳酸値,髄液ピルビン酸値ともに改善がみられた(Table 1b).
第6病日に施行した頭部MRI検査では,両側側頭葉後頭葉の皮質下白質~皮質にかけて拡散強調画像(diffusion-weighted image; DWI)で高信号(bright tree appearance; BTA)を認め(Fig. 1b),左後頭葉背側に急性硬膜下血腫を認めた(Fig. 1b).経過中に発熱を認めておらず第4病日に群発するけいれんが再燃し,第6病日に画像所見としてMRIで急性硬膜下血腫とBTAを認めたことからTBIRDと診断した.
意識障害が遷延しており,第7病日より脳症治療としてステロイドパルス療法を3日間行った.
治療最終日の第9病日より視線は合わないものの笑顔がみられるようになった.第14病日に施行した聴性脳幹反応検査では異常はなかったものの,眼科診察で両側眼底出血を認めた.全身骨レントゲン検査は異常なかった.
入院後,父からの聴取で①双胎第2子が完全母乳である一方,本児のみ人工栄養であること,②離乳食も本児のみ進んでいないこと,③母はどうしても発達が月齢相当である双胎第2子に目がいってしまうといった事実がわかった.また,入院時に認めた右頬部の発赤については,目を離した隙に双胎の第2子がドライヤーで火傷させたとの発言もみられた.このような双胎育児における明らかな差異や熱傷痕に対する不可解な発言に加えて,急性硬膜下血腫と眼底出血を認めたことからネグレクトと身体的虐待の可能性が否定しきれなかった.児童相談所に通告したところ,第18病日に一時保護となり,当院での入院管理を継続することとなった.
第15病日の頭部MRIの再検査ではDWIで両側側頭葉,後頭葉,頭頂葉の皮質下白質~皮質の高信号は不明瞭化し,BTAは消失し,淡蒼球に高信号域を認めた(Fig. 1c).また,第33病日の頭部MRIの再検査では脳実質の軽度萎縮(Fig. 1d)を認め,T2強調画像で左側優位の両側側頭葉,後頭葉,頭頂葉に及ぶ高信号域(Fig. 1d),水抑制(fluid attenuated inversion recovery; FLAIR)画像で左後頭葉の一部に低信号域を認め(Fig. 1d),多嚢胞性脳軟化症の所見と考えられた.
入院中に行った先天性代謝異常等検査,稀少疾患スクリーニング検査,有機酸スクリーニング検査,尿中アミノ酸分析はいずれも異常を認めなかった.入院してから急速に発達は進み,つかまり立ちまで可能となり,あやし笑いもみられ,表情が豊かになった.第72病日に一時保護継続のまま他医療機関へ転院した.転院して22日後に自宅退院となったが,自宅退院した12日後に心肺停止で他院へ救急搬送され,死亡が確認された.
原因不明の意識障害で入院した乳児が,入院後に群発するけいれんと頭部MRI検査で急性硬膜下血腫を伴うBTAを認めたこと,双胎第2子と養育方法に差異があったこと,受傷機転の明らかでない火傷痕があったこと,眼科診察で眼底出血を認めたことから,総合的にTBIRDと診断した.
近年,虐待による頭部外傷(abusive head trauma; AHT)を含む乳児期の頭部外傷後にAESDと類似した臨床経過・画像所見を呈する症例が散見され4,5),TBIRDと呼ばれている1).画像所見としては病初期より急性硬膜下血腫を認めることが多く,第3~6病日にBTAを認め,慢性期には高度の脳萎縮を認めることが多いとされる1).今回我々は,病初期に急性硬膜下血腫の所見は認めなかったものの,二相性の臨床経過・画像所見とともに,急性硬膜下血腫を呈したTBIRD症例を経験した.
TBIRDの病態として興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が介在した細胞興奮毒性の介在が報告されており6),AESDとして典型的な経過をたどりながらlate seizures後に急激に脳浮腫に陥り,予後不良な経過をたどる症例が存在する.また,外傷性脳損傷患者では高血糖と不良な臨床転帰との相関関係が報告されており7,8),本症例でも入院時血糖値は206 mg/dlと高血糖を認めた.
AESDとTBIRDは二相性経過とBTAを示すという点で類似しているが,TBIRDには虐待を含む頭部外傷が含まれるため,両者の区別が重要である.AESDは感染によって引き起こされる脳症であり,通常発症時に発熱を伴う.しかし,発症時の発熱についてはTBIRD症例でも時折認められる1)ため,両者の区別は難しく注意が必要である.一方で,急性硬膜下血腫の存在とBTAの位置は両者を区別するのに有用である9).これまでの報告で,TBIRD症例のほぼ全例で急性硬膜下血腫を認めており,急性硬膜下血腫を伴うAESDは報告されていない.AESDにおけるBTAは前頭部優位(前頭葉,前頭頭頂葉)に出現し,通常は対照的である.一方,TBIRDにおけるBTAは主に後頭葉に出現し,多くは左右差を認める9).本症例でも病初期ではないものの急性硬膜下血腫を認め,両側側頭葉後頭葉にBTAを認め,左右差(左>右)を認めた.
本症例では入院時の画像は急性硬膜下血腫を認めなかったが,第6病日のMRIで急性硬膜下血腫を認め,非典型的な経過であった.一般的に亜急性期に血腫が増大する機序として,①受傷時にくも膜が破綻する,②受傷直後は血腫に圧迫されており髄液の流入は起こらない,③時間の経過とともに血腫が溶解し圧迫が解除される,④破綻したくも膜の部分から髄液が硬膜下腔に流入すると考えられている10–15).本症例では,入院時,頭蓋内圧亢進によって生じる血圧上昇,徐脈というクッシング現象を認めており,画像には反映されなくとも小出血やくも膜の破綻があった可能性は高い.入院後,頭蓋内圧の低下によって破綻したくも膜から髄液が硬膜下腔に流入し,MRIに反映されたと考えられる.また,本症例において,ICU退室後の付き添いは父であったため,そこで2回目の衝撃があった可能性は否定できない.ただ,自宅での養育状況や入院付き添い中の父に不審な点はなかった.
AESD同様TBIRDに対し,明確に示された特異的ないし特殊治療はない.本症例ではけいれんが群発しており,意識障害の遷延を認めたため脳症治療としてステロイドパルス療法を3日間行った.治療最終日には笑顔がみられるまでに改善を認めたことから本症例では有効と判断した.
本症例では一見AESDと考えられたが,遅れて出現した急性硬膜下血腫の存在がTBIRDの診断の一助となった.虐待による頭部外傷の場合,親から正確な情報が得られない可能性もあるため,初回に急性硬膜下血腫をみず,AESDが疑われる場合でも常にTBIRDを念頭におき,慎重にフォローすべきである.
病初期の画像検査で急性硬膜下血腫の所見はみられなかったが,入院後の経過観察中に急性硬膜下血腫の出現とともにTBIRDの所見をみた一例を経験した.初回に急性硬膜下血腫をみなくとも予後不良の脳浮腫が出現する可能性を念頭においた診療が求められる.
本論文に関して,日本小児放射線学会の定める利益相反に関する開示事項はありません.
本論文は倫理委員会の承認(承認番号:R04-03)を得て,患者が特定されないよう配慮した.
本症例の診療につき多大なるご支援をいただき,また,論文作成において画像検査や脳波の評価をご教示いただきました名古屋市立大学医学部附属東部医療センター小児科准教授服部文子先生に深謝いたします.