2024 年 40 巻 2 号 p. 98-102
日本は2021年に結核低蔓延国となり,小児結核患者は2023年に35人まで減少した.一方で結核高蔓延国から日本への移住者は増加傾向にあり,海外出生者の結核は乳幼児の父母となり得る20–30代の若年層が多くを占めることから,小児結核においても今後,注意が必要である.小児の肺結核では第一次結核症の比率が高く,胸部X線では所見が同定できない場合が多い.また,肺門部・縦隔のリンパ節腫脹が特徴的であり,結核が疑われる場合には積極的な胸部造影CTの撮像が必要である.また,乳幼児では粟粒結核や結核性髄膜炎の合併にも注意が必要であり,特に縦隔リンパ節に腫大を認める場合にはそれらの検索が必要である.結核性髄膜炎における頭部CT及びMRIでは中大脳動脈領域の脳梗塞,交通性水頭症の有無の判断が必要である.先天結核は新生児特有の結核であり,母が未診断の性器結核の場合には画像も誤嚥性肺炎に類似したものであることから診断に時間を要することが多い.
In children presenting with pulmonary tuberculosis, the proportion of those presenting with primary tuberculosis is high, and these findings often cannot be identified on chest radiography. This disease is characterized by swollen lymph nodes in the hilum and mediastinum. As a result, if tuberculosis is suspected in children, then aggressive contrast-enhanced chest CT is required. In infants, careful attention should be paid to potential complications of miliary tuberculosis and tuberculous meningitis, and a thorough search for these is particularly necessary when swelling of the mediastinal lymph nodes is observed. Head CT and MRI in patients with tuberculous meningitis are necessary to determine the presence of cerebral infarction in the middle cerebral artery region and communicating hydrocephalus. Congenital tuberculosis is a type of tuberculosis that is unique to newborns, and in cases where the mother has undiagnosed genital tuberculosis, a definitive diagnosis often takes a long time to be made because the images often resemble those of aspiration pneumonia.
日本の結核罹患率は2021年に人口10万対9.2となり,結核低蔓延国となった1).小児結核は2023年に年間35人まで減少しており2),現代では稀有な疾患となった.一方で,海外からの日本移住者は増加しており,日本の結核患者に占める海外出生者は2022年に全体の11.9%と2),増加傾向にある.その7割強を乳幼児の父母となり得る20–30代の若年層が占めていることから2),小児結核においても今後,海外出生者の割合は増加が懸念され,診断の遅れ(doctor’s delay)に注意が必要である.結核の診断は胃液または喀痰の抗酸菌培養による結核菌の検出がGold standardではあるが,小児,特に乳幼児では菌が検出されないあるいは検出までに数週間から1か月以上の時間を要する場合もあり,実際にはインターフェロンγ遊離試験などの感染診断と画像所見を組み合わせ診断される例も少なくない.本稿では小児に特徴的,あるいは注意が必要な結核画像について実際の症例とともに画像診断のポイントを述べる.
成人(特に高齢者)では過去に結核菌に感染し,免疫力の低下等により結核菌の再増加で発病する第二次結核症が大半を占めるが,低年齢の小児では結核の初感染による第一次結核症が多い.学童期に年齢が上がるにつれ第二次結核症の児も散見される.
肺結核の診断において胸部X線は必須であるが,一方で小児,特に第一次結核症の児では低年齢のため正面や吸気での撮影が困難な場合や,感染初期の陰影が微細なことから胸部X線では肺結核が同定できない症例が多くあり,他の感染診断や接触歴,臨床症状などから結核が疑われる場合には積極的な胸部CTの撮影が必要である.その際,低年齢児では肺門及び縦隔のリンパ節病巣の有無を判断するため造影剤の使用が有用である.
第一次結核症では強い急性滲出性反応により広範な区域性浸潤影を症例の70–90%に認める3).その他,肺野の線状影,様々な大きさの結節影やtree-in-bud appearanceと呼ばれる細葉性病変が経気道的に散布され木の芽のように見える所見が認められることもある(Fig. 1).病変は全肺野に均等に認められる.造影画像においては肺門及び縦隔の内部が低吸収なリンパ節の腫脹に注目する.低吸収領域はリンパ節内部の乾酪壊死を反映したものである.乳児では肺野異常を伴わずに肺門や縦隔のリンパ節にのみ病変を認めることもある(肺門リンパ節結核).学童においては肺野末梢の散布性硬化像や空洞,石灰化陰影など粗大病変が認められる(Fig. 2).これらは成人の結核と同様,肺尖部やS6領域などに認められることが多く,病期の進行に伴い対側肺も含め他の領域にも病巣が確認される.
i)肺結核・結核性髄膜炎の生後7か月児.胸部CTで肺野末梢に散布性の粒状影(tree-in-bud appearance)を認める(丸部分).ii)胸部造影CT.左右肺門部に多発する内部が低吸収のリンパ節腫脹を認める(丸,矢印部分).iii)発症当日の頭部単純CT.脳底部の造影効果は認めなかったが,両側前頭葉の皮髄境界の不明瞭化(矢印部分),脳室周囲の低信号があり脳梗塞が疑われた.iv)発症1か月の頭部造影MRI(造影T1強調画像).両側中大脳動脈の造影効果増強と,両側前頭葉から側頭葉にかけての広範な脳萎縮を認めた(矢印部分).
i)肺結核の15歳児.胸部X線で右上中肺野及び左上肺野に多発する結節影を認める.ii)胸部単純CT.左右の肺尖部及び右S6領域に多発する結節影と周囲の散布性粒状影を認める.
特に,細胞性免疫が成人と比較して未発達である乳幼児において,肺野の第一次結核症から肺門部リンパ節,縦隔リンパ節へと病巣が進展し,静脈角から血行性に結核菌が散布されることで肺の微小血管に病巣が形成され粟粒結核となる.全肺野においてびまん性に粟の粒のような微細な粒状影が認められ,進行に伴い癒合することもある(Fig. 3).第一次結核症に合併する場合には肺門・縦隔リンパ節の腫大を伴う.
粟粒結核の生後11か月児.胸部X線で両側肺野にびまん性の粟粒影を認め(i),胸部単純CTでも同様の所見を認める(ii).
粟粒結核と同様に乳幼児において血行散布された結核菌が中枢神経に進展し,病巣形成することで結核性髄膜炎となる.重篤な神経学的後遺症を残す例や,死亡例もあり,乳幼児の第一次結核症で,特に縦隔リンパ節に病変を認める児では鑑別が必要である.
結核性髄膜炎の診断には髄液検査が用いられるが,臨床的には中大脳動脈領域の脳梗塞,交通性水頭症の有無の判断が必要であり,結核性髄膜炎が疑われる児では頭部造影CTまたは造影MRIを行う.両者で脳底部の脳槽に広がる異常増強効果が特徴的である.髄膜炎病変が一部に限局している場合や2次性の血管炎,虚血性変化,梗塞を早期に検出するにはCTよりMRIが優れている.また,血管炎に起因する血管閉塞病変は血管内壁における浮腫や肉芽腫形成によるものと考えられており,内頸動脈の遠位部や前・中大脳動脈近位部,Willis輪の穿通枝に多く見られる.水頭症に関してはCTとMRIに検出能力の差異はない4)(Fig. 1).
4. 先天結核無治療の結核に罹患している母から出生した児が生後2–3週間で急速に呼吸状態が増悪し,先天結核の診断に至ることがある.母が粟粒結核で有症状の場合は比較的診断は容易であるが,母が無症状の子宮・卵巣などの生殖器結核の場合には診断に時間を要する場合が多い.母が結核高蔓延国の出生の場合や,性器結核に伴う母体の不妊治療歴,児が早産である場合も注意が必要である.感染経路は経胎盤血行感染及び結核菌に汚染された羊水の吸引による感染であり,感染経路によって画像所見が異なる.経胎盤血行感染では肝臓や肝門部リンパ節に初期変化を生じ,肺野は血行感染による粟粒影となる.汚染された羊水を吸引した場合には第一次結核症や第二次結核症と異なり誤嚥性肺炎様の画像所見を呈するため結核が疑われにくく注意が必要である5)(Fig. 4).
先天結核の日齢28の児.胸部X線で両側肺野にびまん性に斑状,結節状陰影を多数認めた(i).胸部造影CTでは両側肺野に広範な浸潤影,結節影,線状影が混在している像を認めた(ii).
生後7か月児.母が肺結核のため,結核接触者検診で当院に入院した.胸部造影CTで右上・中葉に散布性粒状影・結節影を認め,肺門部・縦隔リンパ節に内部に低吸収領域を伴う腫脹を認めた.入院時の意識状態は異常なかったが,入院2日目から痙攣を群発した.頭部単純CTで脳底部の造影効果は認めなかったが,両側前頭葉の皮髄境界の不明瞭化,脳室周囲の低信号があり脳梗塞が疑われた.髄液検査で細胞数の上昇を認めたため結核性髄膜炎と診断し,同日から抗結核薬とステロイドによる治療を開始し,集中治療室での治療を要した.治療開始後も意識状態は回復せず,発症1か月の頭部造影MRIでは両側中大脳動脈の造影効果増強と,両側前頭葉から側頭葉にかけての広範な脳萎縮を認めた.気管切開術を行い,在宅調整を行った後,入院8か月後に退院とした.
15歳児.幼少期に結核高蔓延国の居住歴あり.診断2か月前から食欲減退し,5 kgの体重減少を認めた.咳嗽は1日1回程度であった.近医の胸部X線で異常陰影の指摘あり,前医で喀痰Tb-PCR陽性のため肺結核の診断となり,治療目的に当院入院となった.入院時,胸部X線で左右肺野の結節影があり.前医の胸部CTで両肺尖部及び右S6領域を中心に結節影や散布性粒状影を認めた.以上より肺結核(bIII2)と診断し,抗結核薬4剤で治療を開始した.
生後11か月児.生後9か月時に左腋窩のリンパ節腫脹を認め,内部の吸引液から結核菌が検出されたため,当院を紹介受診した.胸部造影CTで左上腕骨骨幹端の骨破壊像を認め,両肺野にびまん性の粟粒影を認めた.左上腕骨の骨結核に起因する粟粒結核と診断し,抗結核薬4剤で治療を開始した.2か月間の入院治療の後,退院とし,計12か月間の治療を行った.
日齢28の児.母が結核高蔓延国の出生で10年前から日本に居住している.母は無症状.不妊治療歴あり.児は在胎35週0日,出生体重2085 gの早産低出生体重児.出生後,呼吸障害があり非侵襲的陽圧換気を要したが一旦改善した.日齢13で呼吸状態が増悪し,日齢17の胸部X線で両側肺野にびまん性に斑状,結節状陰影を多数認めた.日齢26に胃液抗酸菌塗抹が陽性となり,同日から挿管人工呼吸管理,抗結核薬4剤での治療を開始した.胸部CTでは両側肺野に広範な浸潤影,結節影,線状影が混在している像を認めた.入院中に母の感染源検索を前医産婦人科に依頼し,子宮洗浄液の抗酸菌塗抹が陽性であった.母の胸部CT異常はなく,児は母の子宮結核に由来する先天結核と診断した.
小児において特徴的,あるいは注意が必要な結核の画像について症例を交えて提示した.いずれも日常臨床において目にする機会は稀ではあるが,特に結核高蔓延国への滞在歴や家族の居住歴がある場合,まずは結核を鑑別にあげ,早期に診断を行うことが患者の予後及び周囲への感染予防としても極めて重要である.