抄録
月における熱流量観測は、Apollo15・17号着陸地点において、共に月の海と高地の境界付近で行われた。そのような場所ではmegaregolithの厚さが海側と高地側で大きく変化していると考えられている。Warren and Rasmussen (1987) はmegaregolithの熱伝導率は極めて低いため、熱流量がmegaregolithの厚い高地側から薄い海側へ集中し、そのためmegaregolithの厚さの変化がApolloミッションの熱流量観測に大きな影響を与えたことを指摘した。しかし月の表面熱流量は、レゴリスの厚さ変化だけでなく、地形の変化や熱生成放射性元素にも影響される。本研究は数値計算によってこれらがApollo15・17号での熱流量観測に与えた影響を調べることを目的としている。本研究では月の地殻中において、UやThなどの熱生成元素が次の式になると仮定した。C(h) = Co exp (-h/D) ここでhは深さ、Coは表面での存在度、Dは熱生成元素の上部集中度を示すSkin Depthである。計算の結果、表面熱流量への地形とmegaregolithの厚さ変化による影響は、観測値から10-50%の変化をもたらしていることが明らかになり、Apolloミッションの熱流量観測からその地域の代表的な値を求めるためには、大きな修正を行わなければいけないことがわかった。修正された熱流量値をApollo15号と17号地点において比較した結果、Skin Depth Dの値は20-40kmであることがわかった。この値は地球での値、D=10km(Lachenbruch, 1970)よりも十分大きい。Dの値が大きいということは、incompatible elementsの分布が地球よりも一様であることを意味している。これは、月の地殻は大量に、かつ急速に生成されたことを示唆する。