抄録
木星の衛星エウロパやガニメデに代表される多くの氷衛星には構造運動の痕跡と見られる地形が数多く残されており,ある時代に表面が更新されたことを示している.地質学的解析によればこれらの地形は拡張性の断層運動によって形成した開口亀裂や地溝帯であると解釈されており,氷衛星の表面活動を理解するためには氷地殻の応力状態とその進化を明らかにすることが重要な鍵となる.氷衛星上では表面拡張を補償するような沈み込み領域や圧縮地形が見られないことから,拡張性地形の存在は表面積の増加すなわち衛星内部の体積増加の現れと言える.氷衛星において考えられる体積変化の要因のうち,地形形成に最も寄与するのは液体H2O層の固化現象であり,特に低圧氷への相変化は大きな体積増加を伴う.従来よりこの過程は表面更新活動の主要因と考えられてきたが,内部の構造進化に伴う地殻応力の発生とその進化といった問題についてはこれまで十分な研究はなされていない.
液体層の固化によって発生する地殻応力は液体層の固化速度に依存するため,本研究ではまず一般的な氷衛星の内部構造としてシリケイトコアと液体H2O層の二層モデルを仮定し,内部の熱輸送と移動相境界問題を考慮した数値シミュレーションを行った.また氷地殻を粘弾性体球殻としてモデル化し,熱史計算に得られた固化速度を用いて地殻に生じた応力とその時間変化を見積もった.本講演では,氷衛星のサイズや地殻粘性率をパラメタとした地殻応力の計算例について報告する.