抄録
潮汐加熱を取り入れた月の熱的初期進化
○森沢祐介(東大・宇宙研)、水谷仁(宇宙科学研究所)
1.はじめに
月は形成初期段階では現在よりも地球に非常に近かった。現在は地球からおよそ38万kmの軌道を周っているが、形成初期段階では数万kmの軌道を周っていたと考えられている。月は地球から潮汐力を受けることで発熱しており、その量は地球から遠ざかるほど小さくなる。そのため、形成初期段階では現在よりも非常に大きな潮汐加熱を受けて月は暖められていたと推測される。
2.目的
これまで月の潮汐加熱を見積もった研究はPeale and Cassen (1978)によって行われてきた。しかしPeale and Cassenの計算では、月の熱史を見積もる際に月の軌道進化を考慮に入れておらず、地球によって引き起こされる潮汐加熱の効果はさほど重要ではないだろうと結論づけている。そこで本研究は、潮汐加熱は月の軌道進化と内部構造モデルの取り方によって大きく変化するという観点からPeale and Cassen et al. (1978)の結論の見直しを図ることを目的とした。
3.研究内容
本研究において行ったことは大きく分けて2つある。
[1] 月の熱的進化を見積もる際、地球によって引き起こされる潮汐加熱が熱源としてどれくらい効くのかという点を定量的に明らかにする。
[2] 潮汐加熱には不確定な散逸パラメータと呼ばれるものがあり、それをどう置くかによって結果は大きく変化するので、その依存性を定性的に明らかにする。
計算方法はPeale and Cassen et al. (1978) およびKawakami and Mizutani et al. (1986)を参考にした。
4.結果
本研究において次のことが示された。形成初期段階の月の軌道進化と、取り得る内部構造モデルを考慮に入れて月の熱史の数値シミュレーションを行った結果、潮汐加熱は重要な熱源であり、月の初期熱史を見積もるためには軌道進化を考慮に入れる必要があるだろうということが示された。しかし、潮汐加熱の見積もりは不確定なパラメータの取り方によって大きく変化するので、その依存性についても議論する。
[Reference]
[1]Peale, S., and P. Cassen. Contribution of Tidal Dissipation to Lunar Thermal History. Icarus 36, 245-269 (1978).
[2] Kawakami,S., and H. Mizutani. Thermal history of IO. Icarus 70, 78-98 (1986).