日本惑星科学会秋季講演会予稿集
日本惑星科学会2003年秋季講演会予稿集
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オーラルセッション3 10/9(木)9:15~10:45
月内部潮汐応力と深発月震発生との関係
*板垣 義法荒木 博志水谷 仁
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p. 39

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抄録
1969_から_1977年の間のおよそ8年強、アメリカが行ったアポロミッションにおける地震学的観測により、月震の1種類である深発月震に関して多くの特徴が明らかとなった。しかしながら、今日に至るまで深発月震の震源領域における潮汐応力の振る舞いに関しての詳細は明らかにはなっておらず、アポロミッションから30年余を経た現在においても推測の域を出ないのが現状である。
本研究では、月内部潮汐応力と深発月震との関連性について新たな理論の第一歩を構築するために潮汐応力そのものの振る舞いに注目した。
潮汐応力の計算はTakeuchi (1950) によって構築されたy関数法を用い、また地球_-_月系の相対的な位置に関しては、Chapront and Chapront (1982) により与えられた高精度を誇る半解析解月暦(ELP2000/82)を採用している。用いた月内部速度構造モデルは、アポロ月震データの解析により得られたNakamura et al.(1982) によるものであり、密度構造はTanaka et al.(1990) を用いている。
計算された潮汐応力6成分の大きさや振幅は、仮に月の内部構造を固定とした場合でも深さや位置によって異なる。さらに深発月震に関する興味深い事象の1つとして、その震源の深さがおおよそ900km前後に集中していることが挙げられ、この原因の一例としてとして月深部への応力集中も考えられている (Nakamura, 1976)。つまり、震源の空間分布と潮汐応力とを対応させて考える必要があろう。そこで、半径400kmの流体鉄コアからなる月モデルを用いて緯度経度5°刻みで月内部潮汐応力の計算を行い、各震源直下深さ900kmにおける成分のうち最大のものを月面上にプロットしてみると、潮汐応力分布は定性的に6つの領域に区分される。それは、(1) 低経度かつ低緯度の領域、(2) 中経度かつ低緯度_から_中緯度の領域、(3) 高緯度領域、(4) 低緯度_から_中経度かつ高緯度の領域、(5) 中経度かつ高緯度の領域、そして (6) 低経度かつ高緯度の領域、である。この6つの領域ではそれぞれ、σrr, σ, σφφ, σ, σθφ, そして σθθ の各成分が卓越している。これを深発月震の震源分布と照らし合わせると、震源はσrrの卓越する領域とσrφの卓越する領域、特にσ領域に集中しており、これらの成分が深発月震発生に対して支配的なトリガとして働いていると思われる。以上の特徴より、Itagakiら (2003) は、月深部に働く東西方向のテクトニックな応力の存在の可能性を結論付けている。またこの結果は、先に述べた震源の深さ分布を説明することができ、潮汐応力の観点から考えるとコア半径はおおよそ400km以上というかなり大きなものでなければならないことを示している。
さらに議論を深めるためには、このような区分のみならず各々の領域に存在する震源について潮汐応力との関連性を詳細に調べる必要があると考えた。そこで、6つの領域に関して各々の震源における潮汐応力6成分の計算結果に着目し、それにより潮汐応力の深さ分布を示した上でそれらを比較検討した。その結果、最も震源数の多いσ領域では、その全てが実際の震源深さにおいてもσrφ成分が卓越している。しかしながら、次に震源の集中しているσrr領域では、σrr,成分がトリガであることがはっきりと見て取れる震源も存在するが、この領域に属する半数の月震は深さ1100km以上という非常に深い地点で発生しており、そこではσθθ, σφφといった他の成分が卓越する結果となっている。σrr領域に関して、1000km以深、特に1100kmよりも深い地点で起こる深発月震は、深さ900km前後という平均的な深さで起こる深発月震とは異なったメカニズムで発生している可能性がある。
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© 2003 日本惑星科学会
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