主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第4回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第56回 日本理学療法学術大会
会議名: 第8回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: Web開催
開催日: 2021/11/13
p. 45
【背景】
高齢化の現代では、介護予防を目的とした高齢者の社会参加が重要視されており、ソーシャルキャピタル強度との関連が注目されている。しかし、そういった一般介護予防事業に資する社会参加ができていない高齢者が多い現状にある。
【目的】
地域の既存のコミュニティを介護予防の観点から見直す為、日常的に通う銭湯が代わりにその一端を担い、地域高齢者のソーシャルキャピタル構成要素と関連しているか調査することである。
【対象と方法】
対象は大阪市西成区在住の銭湯利用高齢者のうち、本研究参加に同意を得られた74名(男性 58名、女性 16名、平均年齢 76.8±5.7歳)である。方法は銭湯の利用頻度や目的、健康に関する対面式聞き取り調査と体組成検査(骨格筋量測定)を実施した。聴取した項目は、基本属性(年齢、性別、身長、体重)、主観的健康感(5段階)、個人レベルのソーシャルキャピタル構成要素(近隣住民との交流、近隣住民への信頼の強さ、社会参加の多さ)、慢性疼痛箇所と程度、睡眠の満足度である。対象者を銭湯の利用頻度により群分けし、各種データについて群間比較を実施した。ソーシャルキャピタル構成要素のうち近隣住民との交流と近隣住民への信頼の強さを従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施し、常的な銭湯利用の有無が独立した関連因子となるか検討した。有意水準は5%未満に設定した。
【結果】
銭湯利用の理由として最も多かったのは自宅にお風呂が無いと回答した39%であり、頻度は週 3~4 回と回答した 39%であった。また地縁活動等の社会参加をしている者は 31%であった。ロジスティック回帰分析の結果、銭湯利用頻度は地域への信頼の強さに独立して関連する因子であり(オッズ比(OR)4.98,95%信頼区間(CI)1.56~15.82, p<0.01)、近隣住民との交流とも有意に関連していた(OR 3.39, 95%CI 1.36~8.24, p <0.01)。銭湯を週に3 回以上使用している群は週 2回以下の群と比較して近隣住民との交流、近隣住民への信頼の強さが有意に高く(p<0.05)、総合的にソーシャルキャピタル強度が有意に高い(p<0.01)結果となった。その他の項目に関しては、有意な関連を認めなかった。
【結論】
対象者である銭湯利用者の多くは社会参加が乏しく、自宅環境から日常的に地域銭湯を利用している方が多かった。その中でも銭湯の利用頻度が多い群が少ない群と比較して個人レベルのソーシャルキャピタル強度が高かったことは、銭湯に日常的に通うことにより独自のコミュニティが形成されている可能性があり、これによってソーシャルキャピタル強度が向上された可能性がある。地域での生活に関わる専門職や行政が銭湯という既存のコミュニティへの促しや存続に関与すれば、一般介護予防事業に資する社会参加ができていない高齢者を、「入浴」という日常生活動作を通して介護予防に繋げることができる可能性もある。
【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は個人情報保護法を遵守し施行した。年齢・性別などの情報が記録されるが、個人が容易に特定される個人情報は入手しておらず、また情報の取り扱いには十分注意し、得られたデータは登録番号にて匿名化した。研究目的に関する十分な説明を口頭で行い、アンケート調査協力に対する同意を得た。また、畿央大学倫理委員会で承認を得ている。