日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第8回 日本予防理学療法学会学術大会
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非糖尿病高齢者における下肢筋量がインスリン抵抗性の進展に及ぼす影響
世古 俊明赤坂 憲樋室 伸顕小山 雅之森 満大西 浩文
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p. 8

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抄録

【はじめに、目的】

インスリン抵抗性(IR)は種々の生活習慣病の背景因子であり,内臓脂肪の蓄積を基盤とすることが多い。しかし,高齢者では非肥満でもIRを呈するものが多く,従来の肥満に着目した糖尿病予防対策では非肥満ハイリスク者を見逃す可能性がある。我々は,横断研究によって高齢者の下肢筋量が肥満とは独立して,IRに関連することを明らかにした。骨格筋はインスリンの標的臓器のため,身体構成比の大きい下肢筋量がIRに関連したと推測され,今後は因果関係の究明が課題となった。本研究では,地域在住コホート集団を対象に非糖尿病高齢者の下肢筋量がIR進展に及ぼす影響を他の骨格筋指標も含めて検討した。

【方法】

北海道壮瞥町の特定健診に参加した高齢者 337 名のうち,ベースライン調査時にIRおよび糖尿病の既往がない194名(平均年齢75.1歳,女性 59.2%)を解析対象とし,最大2年間の追跡調査を行った。IRの指標にはHOMA-IRを用い,ベースラインおよび追跡調査時に繰り返し測定を行った。また既報より,HOMA-IRが1.73以上でIR 進展ありと定義した。骨格筋指標として,BIA法による筋量(下肢,上肢,四肢,体幹),筋力(膝伸展筋力,握力),至適歩行速度をベースライン調査時に測定した。なお筋量と筋力は,各々体重で除して体重比を算出した。解析は,IR進展に及ぼす各骨格筋指標の影響をCox比例ハザード分析にて検討し,ハザード比を算出した。共変量には性別,およびベースライン時の年齢,腹囲径,HOMA-IRを用いた。

【結果】

追跡期間におけるIRへの進展割合は 31.9%(62/194名)であった。年齢、性別、初年度の腹囲径、HOMA-IRで調整後の下肢筋量のハザード比は 0.88(95%CI : 0.79-0.98, p=0.031),四肢筋量のハザード比は 0.89(95%CI: 0.81-0.99, P=0.030)であり,筋量が多いほど将来のIR進展に対する危険性が低くなる関連を認めた。一方,他の骨格筋指標はIR進展に有意な関連を認めなかった。

【結論】

非糖尿病高齢者における下肢筋量の低値は,肥満とは独立したIR進展に対する危険因子であることが示唆された。本結果より,非肥満の場合でも下肢筋量を測定することで将来の生活習慣病罹患ハイリスク者を検出できる可能性がある。また,下肢筋量を維持することは高齢者のIRの進展,ひいてはIRを背景とする生活習慣病の予防のための新たな戦略として期待できる。

【倫理的配慮、説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理原則と倫理指針を遵守し,札幌医科大学倫理委員会に同意説明文書を含む研究実施計画書とインフォームド・コンセントの内容について諮り、了承を得たうえで実施した。

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