主催: 日本毒性学会
会議名: 第49回日本毒性学会学術年会
開催日: 2022/06/30 - 2022/07/02
活性カルボニル種(RCS)は,環境中もしくは生体内で産生されるカルボニル化合物の中でも特に化学反応性が高い化合物の総称である.RCSは,マイケル付加反応によりタンパク質Cysチオール基などの求核性残基に共有結合し,タンパク質機能を変化させることが示唆されている.しかしながら,RCSの標的タンパク質や生理的役割についての詳細は不明である.そこで,私たちは21種のRCSに対して,細胞内の恒常性維持に重要なホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3K)–Aktシグナリングへの影響について解析した.
ヒト肺胞上皮腺癌由来A549細胞に各RCSを前処理し,上皮増殖因子(EGF)で刺激したところ,数種のRCSによりAktリン酸化が抑制されることが分かった.そこで,最も顕著な作用を示したメチルビニルケトン(MVK)に着目し,作用メカニズムの解明を試みた.MVKはEGFによるPI3Kリン酸化を抑制した一方,EGF受容体(EGFR)のリン酸化には全く影響しなかった.このことから,MVKはEGFR–PI3K間に作用する可能性が示された.そこで,PI3KにおけるMVKの結合部位を同定するため,LC-MS/MS解析を行ったところ,MVKはPI3K p85サブユニットのCys656に結合することが分かった.同定したCys近傍領域はEGFRと結合し,リン酸化を認識する機能を持つ.そこで,共免疫沈降法を用いた解析を行ったところ,MVKはEGFRとPI3Kとの結合を阻害することが分かった.
以上より,MVKはPI3K p85サブユニットCys656に作用し,EGFR–PI3K結合を阻害することでPI3K–Aktシグナリングを負に制御することが示された.また,他のRCSにおいてもMVKと同様の機構によりPI3K機能を制御し得る可能性が示唆された.