日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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予防指定演題
新型コロナウイルス感染症流行下における独居高齢者の抑うつリスクに対する非対面交流の緩和影響:縦断研究
野口 泰司林 尊弘窪 優太冨山 直輝越智 亮林 浩之
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キーワード: COVID-19, 抑うつ, 独居
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p. 12

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抄録

【はじめに、目的】

高齢者の独居は、社会資源の不足からメンタルヘルスはじめ様々な非健康アウトカムと関連するが、独居による健康影響は豊かな社会的繋がりにより緩和されることが示されている。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、社会活動の自粛など人々の社会的繋がりを制限しているため、独居高齢者への健康影響が危惧される。独居のメンタルヘルス影響は、電話やメールなどによる非対面の社会的交流によっても緩和される可能性が示唆されているものの(Noguchi, Public Health 2021)、COVID-19流行期間における縦断研究によるエビデンスは乏しい。そこで本研究は、COVID-19流行期間中においての独居と抑うつ状態の変化との関連性および非対面交流による緩和影響について、縦断研究デザインにより検討することを目的とした。

【方法】

対象者は、美濃加茂市在住の一般高齢者または要支援認定を受けている高齢者から無作為に抽出され、COVID-19流行の第1波に係る緊急事態宣言発令前の2020年3月(ベースライン)と、同10月(フォローアップ)に郵送調査を行い、両方の調査への回答者のうち2時点で世帯構成の変化がなかった1,001人(追跡率81.9%)を解析対象とした。抑うつ状態の変化は二質問法(Spitzer, JAMA1994)により評価され、ベースラインおよびフォローアップ時の抑うつ状態から、「継続して抑うつなし」、「抑うつ発生」、「抑うつの回復」、「継続して抑うつあり」の4群に分けた。非対面交流は、フォローアップ調査にて、COVID-19流行期(2020年4~8月)における別居家族や友人との電話やメールのやり取りの頻度を尋ね、「週1回未満」、「週1回以上」の2群に分けた。統計解析は、欠損値は多重代入法により補完し、目的変数を抑うつ状態の変化、説明変数を世帯構成(同居、独居)、非対面交流、およびそれらの交互作用項、調整変数をベースライン時の年齢、性別、社会経済状況、ADL、疾病、健康感、社会的ネットワーク、外出頻度、運動機能、認知機能として多項ロジスティック回帰分析を行い、抑うつ状態の変化に対するオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。

【結果】

対象者の平均年齢(標準偏差)は79.9(4.9)歳で、女性は53.3%であり、独居は13.8%だった。抑うつ状態の変化について、継続して抑うつなしは44.2%、抑うつ発生は13.4%、抑うつの回復は12.1%、継続して抑うつありは30.2%であった。多変量解析の結果、独居は抑うつの発生と有意に関連した(OR=1.95, 95%CI=1.05-3.62, p=0.035)。一方で、抑うつの発生に対し、独居と非対面交流との負の交互作用が認められた(OR=0.21, 95%CI=0.06-0.76, p=0.018)。

【結論】

独居高齢者は、COVID-19流行期間において高い抑うつ発生リスクを有していたが、これは非対面交流があることで緩和される可能性が示唆された。感染症流行下における独居高齢者のメンタルヘルスを保護するために、非対面交流も含めた社会的繋がりの維持・促進が重要である。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は、国立長寿医療研究センターおよび星城大学の倫理・利益相反委員会の承認のもと実施した。調査票には研究の説明書を添付し、回答をもって同意とみなした。本研究はヘルシンキ宣言を遵守して実施した。

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