日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
Online ISSN : 2758-7983
第9回 日本予防理学療法学会学術大会
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予防セレクション1
コロナ禍における地域高齢者の社会的ネットワークの変化パターン:お達者研究
河合 恒江尻 愛美今村 慶吾伊藤 久美子藤原 佳典平野 浩彦井原 一成金 憲経大渕 修一
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p. 3

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抄録

【はじめに、目的】

わが国おける新型コロナウイルス蔓延による活動制限は、感染状況に応じて緩和されてきてはいるものの2020年4月の緊急事態宣言以降実に2年以上も継続している。コロナ禍の活動制限の影響による心身の健康悪化についてはいくつかの報告があり、コロナ禍では社会的孤立状態にある者が高齢者では増えたという報告もある。しかし、感染状況に応じてどのように社会的ネットワークが変化し、社会的孤立状態に影響を及ぼしたのかは明らかになっていない。そこで、本研究では、コロナ禍以前からの2年間の縦断データから、高齢者の社会的ネットワークの変化パターンを同定し、その関連要因を検討した。

【方法】

地域高齢者のコホート「板橋お達者健診2011」の2019年10月会場調査をベースライン(T0)として、2020年6月(T1)、2020年10月(T2)、2021年10月(T3)に追跡調査を行い、T0といずれかの追跡調査に回答した647名(男性241名、女性406名、平均年齢(SD):73.7(6.5)歳)を分析対象とした。社会的ネットワークはLubben Social Network Scale-6(LSNS-6)によって評価し、LSNS-6合計点およびT0からの差分の変化パターンを混合軌跡モデリングによって同定した。パターン間のT0時の慢性疾患、社会参加、週2回以上の体操・運動の状況、握力、歩行速度、LSNS-6、食品摂取多様性、認知機能(MoCA-J)などをχ2検定、t検定にて検討した。さらに、パターンを従属変数、有意差を認めた指標を独立変数、性、年齢を調整した多項ロジスティック回帰分析を行った。

【結果】

LSNS-6合計点の変化は高中低の3パターンが同定されたが、4時点で大きな低下はなかった。LSNS-6のT0からの差分は、T1で6点低下し、その後維持の低下群(15.1%)、T4にかけて低下傾向であるが低下が2点以内の維持群(63.0%)、T1で4点向上し、その後維持の向上群(21.8%)の3パターンが同定された。群間で有意差を認めた指標は、スポーツ関係のグループへの参加、週2回以上の体操・運動の状況、LSNS-6、MoCA-Jであった。多項ロジスティック回帰分析の結果、維持群に比べて低下群ではLSNS-6が有意に高く(オッズ比(95%信頼区間):1.18(1.12-1.24))、週2回以上の体操の実施者が有意に多かった(2.15(1.08-4.29))。維持群に比べて向上群ではLSNS-6が有意に低く(0.92(0.89-0.96))、MoCA-Jが低い傾向を認めた(0.94(0.89-1.00))。

【結論】

コロナ禍の活動制限によって、地域高齢者の社会的ネットワークには大きな変化はみられず、維持している者が6割を超えていた。一方で、低下した者では、疾患や身体機能が低いなどの影響は認めず、むしろ定期的に運動を行い社会的交流が活発であったために制限によってそれらへの参加が妨げられたと考えられた。これらは緊急事態宣言時に低下した水準から回復しておらず、以前の水準へ戻していく働きかけが必要である。向上した者では、逆に社会的孤立や認知機能が低いことがわかったが、これはコロナ禍において家族や友人による介入が増えたためではないかと考えられた。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は東京都健康長寿医療センター研究倫理審査委員会の審査承認を得て実施した(承認番号:2020年2、R21-06、R21-033)。対象者には口頭及び書面によるインフォームドコンセントを得た。

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