主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合
共催: 第5回 日本産業理学療法研究会学術大会, 第7回 日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会, 第57回 日本理学療法学術大会
会議名: 第9回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 赤羽会館(東京都)
開催日: 2022/11/19 - 2022/11/20
p. 52
【症例紹介】
本症例はバスケットボール部に所属する15歳男性(身長:163cm、体重:67kg、BMI:25.2)で、ハードル走の着地時に受傷した。脛骨近位骨端線離開骨折(Salter Harris:分類2型、Flexion型)と診断され観血的骨接合術を施行された。当疾患は後方重心での着地による大腿四頭筋の強力な収縮が受傷要因であるが、非常に稀な疾患のため理学療法分野の報告が乏しく、発症に関与する身体機能は明らかではない。そこで術後経過に加え、受傷要因に関与する患部外評価をもとに発症・再発予防の考察を報告する。
【評価結果と問題点】
術後1日は患部固定中であり、受傷要因に関与する機能障害を抽出するため評価を実施した。ROM-t(患側/健側)は足関節背屈10°/15°、膝関節屈曲(固定により測定不可)/150°と両足関節背屈可動域制限を認めた。徒手筋力計による筋力検査(健側)は、膝関節伸展292N、膝関節屈曲138N、H/Q比は0.47で膝関節屈曲筋力低下が確認された。脚長にて正規化したStar Excursion Balance Tes(以t 下、SEBT)は前方:75.6%、後内側:82.1%、後外側:83.0%であった。高校バスケットボール選手を対象とした先行研究では、前方:83.9±7.1%、後内側:113.4±9.7%、後外側:106.4±10.8% であり、後方課題にて低下を認めた。
【介入内容と結果】
術後は疼痛・炎症管理指導に加え、再発予防の観点から両足関節背屈可動域練習・膝関節屈曲筋力強化・減量目的での有酸素運動を開始した。手術2週後より患側膝関節可動域練習を開始、手術4週後から1週毎に1/3荷重、1/2荷重、2/3荷重、全荷重練習を開始した。退院時評価(術後6週)では、ROM-t(患側/健側):足関節背屈25°/25° 膝関節屈曲 150°/150°、筋力検査(健側/患側)は、膝関節伸展270N/68N(患側脛骨粗面部に疼痛)、膝関節屈曲 210N/110N、健側H/Q比は0.78、体重は63.3kgでBMIは22.8であった。健側SEBT は、前方79.2%、後内側:93%、後内側:95.3%と改善を認めた。
【結論】
本邦理学療法分野における唯一の先行報告では、受傷要因としてBMI高値、足関節背屈可動域制限が述べられ、本症例もBMI高値、背屈可動域制限を認め先行報告を支持する。さらに本症例ではH/Q 比、SEBT(後方課題)が不良な値であった。後方課題は下肢を後方へリーチする際に、体幹前傾にて支持基底面内に身体重心を保持する必要がある。つまり、本症例は体幹前傾位での姿勢制御が困難であり、大腿四頭筋に依存した体幹後傾位での姿勢制御が生じやすい状況であった。加えて術後患側脛骨粗面部に疼痛が残存しており、同部位への負担減少を図る必要がある。以上から、術後介入・発症・再発予防として膝関節屈曲筋力や体幹前傾位でのバランス機能に着目することが重要である。またSEBTは、背屈可動域制限やスポーツ障害との関係も報告されており、当疾患のリスク要因を包括した評価として活用できる可能性がある。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例、ならびに本症例の保護者に対して、ヘルシンキ宣言に従い発表の意図を説明し、紙面にて同意を得た。