主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合, 第59回 日本理学療法学術大会
会議名: 第11回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 仙台大学(宮城県柴田郡柴田町)
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】
運動主体感(SoA)とは、身体や環境に物理的変化を引き起こしたのは自分自身であるという主観的感覚であり、運動パフォーマンスに関連する。SoAは自発的な行動に対する結果の情報遅延によって低下し、反対にSoAが生起した場合、行動と結果の時間的ズレよりも、被験者が感じる時間間隔が短くなる" Intentional Binding;(IB)"という現象が生じる。
SoAは加齢や認知的負荷によって変動することから、ワーキングメモリ (WM)の関与が示唆されるが、認知的処理機能とSoAとの関連は明らかではない。本研究の目的は、高齢者における WMがSoAにおよぼす影響の差異を検討することである。
【方法】
被験者は健常高齢者30名とし、SoAの測定にはPCを用いた。 PC画面上に5mmの正方形の白い箱が下方から上方へ20mm/sで移動し、ランダムなタイミングで箱を赤色に変化させた。課題は、箱の変色後に100~1000msの間でランダムに箱がジャンプする受動条件と、箱の変色後にできるだけ素早くボタンを押してもらい、ボタン操作後に箱がジャンプする時間を100~ 1000msの間でランダムに遅延させる能動条件とし、被験者にそれぞれどの程度時間遅延が生じたかを答えさせた。SoAの評価には、IBの有無を測定し、能動条件-受動条件の値が負だった場合、IBが生じていると定義した。
WMの評価には、リーディングスパンテストを用い、画面に提 示された一文を音読し、同時に文中の指定した単語を記憶させ、文が終わる毎に記憶した単語を口頭で再生させた。1~5文条件を実施し、正しく再生できた総単語数を測定した。統計解析には、100~1000ms間のIBの値とWMの容量を2要因とした2元配置分散分析を用いて検討し、有意水準は5%とした。
【結果】
遅延時間とWM容量の各要因には主効果を認めたが、交互作用はみられなかった。全体的な測定値の結果として遅延時間が増加するほど、能動条件-受動条件の値は大きくなり、より時間短縮効果は少ない傾向がみられた。
【考察】
本研究結果は、高齢者ではIBが生じないという先行研究を支持するものであった。また、WMによるIBの差異が生じるとの仮説を立てていたがWMによる影響は見られなかった。WMは、情報処理を含む実行系機能の役割を果たし、本実験においては能動条件がより関与し、受動条件を含めたIBはWMを反映しない可能性が考えられた。以上から、WMの特性に応じたSoAの評価手法により、WMとSoAの関連性を調査する必要性が示唆された。
【倫理的配慮】
順天堂大学倫理委員会の承認を得た (承認番号 :23-089)