【はじめに】
当院では大腿骨近位部骨折(以下HF)患者に対して,骨折リエゾンサービスクリニカルスタンダードに則りフレイル等の各種評価を施行している.しかし,急性期においては疼痛や補助具等により正確な評価がしにくい.その中で鳥羽らによって開発された「転倒スコア」は,転倒リスクを評価する質問紙法であり,認知機能が良好な場合,容易に評価可能である.そこで,我々はこの転倒スコアが高い場合,転倒への恐怖により活動量が低下し,延いては歩行能力低下につながるのではないかと仮説を立てた.よって,本研究の目的は,HF術後1週の転倒スコアから術後6か月における歩行能力低下を予測可能か検証することである.
【方法】
2022年4月から2023年5月までの1年2ヶ月間で当院にて脆弱性HFで手術適応となった連続234例(男性50名,平均年齢81,98±9,75歳)のうち,Abbreviated Mental Test Score7点以上且つ術後6か月の追跡調査が可能であった51例(男性9名,平均年齢 78.47±9.11歳)を対象とした.術後6か月での歩行能力(補助具の程度)を術前と比較し,「歩行維持群」と「歩行低下群」の2群に分け,群間比較した.評価指標は性別,年齢,病前歩行状況,介護保険等級,術後1週と術後6か月におけるロコモティブシンドローム,サルコペニア,フレイル,転倒スコア,各評価の6か月間での推移 とし,後方視的に調査した.統計解析はSPSS Statistics 26を用い,有意水準は5%未満とした.なお,欠損値は除外した.
【結果】
歩行維持群は39名(男性6名,平均年齢77.10±9.59歳),歩行低下群は12名(男性3名,平均年齢82.92±5.55歳)であった.2群間で有意差を認めたものは,歩行維持群/低下群の順に術後1週転倒スコア9.84±3.61/12.58±4.48(p=0.047),6か月後転倒スコア 9.0±3.64/11.67±2.77(p=0.033),介護保険等級の維持24名 (61.54%)/3名(25.0%)(p=0.027),フレイルの改善20名(54.05%)/2名(16.67%)(p=0.024)であった.術後1週の転倒スコアは仮説立証のため単回帰分析を施行し,p=0.053(オッズ比0.839,信頼区間0.702~1.002)と有意差を認めなかった.
【考察】
両群での年齢や術前状況に有意差は無いものの,歩行低下群では転倒スコアが高く,フレイルが進行し介護保険等級が悪化しており,我々の仮説を支持するものであったが,単回帰分析における関連性は有意とは言えなかった.これは,症例数の少なさ等が影響している可能性があるため,今後も症例集積を継続して,さらなる検証に臨みたい.
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護には十分留意し,説明と同意などの倫理的な配慮を行った.
抄録全体を表示