主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合, 第59回 日本理学療法学術大会
会議名: 第11回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 仙台大学(宮城県柴田郡柴田町)
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【はじめに、目的】
我々は介護付有料老人ホームでのPTの個別介入効果を報告した (井尻,2022)。制度上、PT介入へ介護保険請求はできず、各施 設に内包されたサービスとして提供する必要がある。そのため、介護予防や転倒・誤嚥性肺炎等の発症予防に費用対効果が求められる。近年、集学的・包括的治療の効果が示されており、施設環境を考慮すると施設内活動に着目した包括的介入の効果が期待される。そこで今回、個別介入から包括的介入への変更による費用対効果を検討した。
【方法】
対象は介護付有料老人ホーム (56床)のR4.4~R6.3までの入居者とし、PTは提携医療機関より週5日・半日派遣された。介入方法はR4年度:全入居者に対して1回15分以上 (1回/週)の個別介入のみ、R5年度:定期評価(1回/月)へ変更、加えてカンファレンス・褥瘡ラウンド等へ参加し、包括的に介入した。費用指標は、医療機関からの派遣のため単位時間当たりの人件費のみとし、増分費用を算出した。なお時給額は令和3年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金:時給換算 (厚生労働省)を元に 1770円/時とした。効果指標は、BI低下率・介護度低下率・誤嚥性肺炎発症数・転倒件数とし、R4年度からR5年度の増分効果を抽出した。さらに、増分費用効果比 (増分費用/増分効果)を算出し、費用対効果を評価した。
【結果】
平均要介護度はR4: 3.44、R5:3.32であった。増分費用は 89680円とR5年度で増加を認めた。改善を認めた各効果指標はBI低下率R4:40%、R5:17%、介護度低下率R4:7%、R5:3%、誤嚥性肺炎発生数R4:7名、R5:2名、転倒件数R4: 37、R5:44であった。増分効果はBI低下率:23%減、介護度低下率:4%減、誤嚥性肺炎発生数:5人減で、増分費用効果比は、BI低下率:3899円、介護度低下率:22420円、誤嚥性肺炎発生数:17936円であった。
【考察・結論】
包括的介入ではBI低下予防を主に、高い費用対効果を認めてい た。当施設のような比較的重度な入居者を有する施設においては、包括的介入へ切り替える方が、予防効果が高いことが示唆された。当報告は介護付有料老人ホームでの予防に対する、一般的な個別介入ではない新たな介入方法を提示した報告である。 1施設における小さなサイズでの検討であるため結果の一般化が困難であることや、自施設内でPTを雇用する場合とは費用率等が異なる点に留意する必要がある。
【倫理的配慮】
本研究にあたり、対象者の属性情報保護を厳守し、分析を実施した。また当施設におけるPT介入方法変更時には、入居者ならびに家族へ紙面を用いた説明会を開き、質疑時間を設け、否定的意見がないことを確認した。