主催: (一社)日本予防理学療法学会、(一社)日本理学療法学会連合, 第59回 日本理学療法学術大会
会議名: 第11回 日本予防理学療法学会学術大会
回次: 1
開催地: 仙台大学(宮城県柴田郡柴田町)
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】
フレイル表現型のうち,社会的フレイルは環境面や経済面などを含めた社会的側面を表す。先行研究より,幼少期の戦争経験により生じた住環境の変化や貧困などの被害は,社会的な構造に変化が生じ,心身の長期的な不健康状態や包括的なフレイル状態に発展すると報告されている。我々は,幼いころに経験した直接的あるいは間接的な戦争被害は,高齢期の社会的フレイルに関連すると仮説を立て調査を行った。
【方法】
本研究は,要介護状態と精神疾患を呈している者を除 外した126名の高齢者 (平均年齢75.5±13.5歳,女性82.6%)を 対象とした横断研究である。社会的フレイルは,先行研究より,「独居である」,「昨年に比べ外出頻度が減っている」,「友 人宅を訪ねている」,「家族や友人の役に立っていると思う」,「誰かと毎日会話をしている」のうち,2項目以上有効回答を認める者とした。戦争被害の設問は,先行研究より,「死を間近に感じた」,「睡眠障害を経験した」,「身の危険を感じた」,「死亡/負傷した人を知っている」,「引っ越しを余儀なくされた」,「水や食料が不足した」,「激しい空爆地域に住んでいた」の設問において2件法にて回答を求めた。1項目以上「はい」と回答した者を戦争被害ありとした。なお,PTSDの診断基準を参考に,戦争被害ありは,家族の戦争経験により自身の生活や健康状態に変化が生じた場合も包含した。統計解析は,社会的フレイルの有無にて群間比較を行った。また,従属変数を社会的フレイルの有無,独立変数を戦争被害の有無としたロジスティック回帰分析を行った (共変量:性別,年齢,教育歴,多剤併用)。
【結果】
社会的フレイルは33名 (該当割合26.1%)であった。社会的フレイル群は非社会的フレイル群と比較して戦争被害を有する割合が高かった (P=0.002)。ロジスティック回帰分析の結果,戦争被害と社会的フレイルの調整モデルのオッズ比は3.34であった (95%信頼区間1.29-8.70,P=0.012)。
【考察,結論】
戦争被害を有することは社会的フレイルの該当割合の高さに関連した。幼いころに経験した戦争被害によるトラウマ体験や生活様式の変化などは,高齢期の社会的フレイルに関連する可能性がある。高齢者において,幼いころの戦争被害を理解することは,社会的フレイルを予防するための知見になるかもしれない。
【倫理的配慮】
当院倫理委員会の承認を得た(承認番号 202204)。調査に先立ち,プライバシーは固く守られること,研究の参加は任意であること,研究の参加を同意した後でも辞退は可能であることを説明し,対象者から書面で同意を得た。研究趣旨と戦争経験に対する設問があることを事前に説明し,精神的苦痛を与えぬよう配慮した。調査による心理負荷を考慮し,専門家による相談窓口を設け,必要に応じてフォローができる体制を整えた。