主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第42回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 42
開催地: 仙台
開催日: 2021/12/09 - 2021/12/11
【目的】膵臓癌に対するFOLFIRINOX(FFX)療法施行により、この10年の予後改善効果は顕著であるが、オキサリプラチン(L-OHP)誘発性末梢神経障害による投与中止が未だ解決すべき問題とされている。L-OHPの体内動態が関与していることは認められてきたが、その対策は未確立である。そこで我々は、膵臓癌モデルラットにおけるFFX反復投与後のL-OHPの体内動態と末梢神経障害の発現頻度および程度との関係性についてPK-TDモデルを構築し、モデリング&シミュレーションから用量調節による末梢神経障害発現リスクのマネジメントにおける有用性について検討したので報告する。
【方法】Wistar系雄性ラットに7,12-ジメチルベンズ[α]アントラセンを用いて膵臓癌モデルラットを作製し、FFX(5-FU点滴静注(50 mg/m2/hr、4時間)、CPT-11静脈内投与(180 mg/kg)、L-OHP静脈内投与(5 mg/kg))を週1回4週間反復投与した。投与開始1、8、22日目に、経時的に血液サンプルを採取した。また、投与2時間後に後根神経節(DRG)も採取した。血漿中とDRG中の白金濃度をLC-MS/MSによって測定した。急性末梢神経障害をアセトンテスト、蓄積性末梢神経障害をvon Freyテストにて、投与開始0日目から39日目まで評価した。PK-TDモデリング&シミュレーションには、Phoenix WinNonlin ver. 8.3ソフトウェアを使用した。
【結果・考察】投与開始8、22日目の白金のAUC0-∞は、各々、6.0±2.0、 3.9±0.7 μg*h/mLであり、投与開始1日目(5.5±1.3 μg*h/mL)と比べて、22日目で有意に減少した。一方、投与開始8、22日目のDRG中白金濃度は、投与開始1日目と比べて、各々、約1.95倍、約1.98倍有意に増加しており、FFX反復投与によるDRGへの白金の蓄積が認められた。また、急性末梢神経障害の発現は、投与開始4日目から、蓄積性末梢神経障害は投与開始18日目から認められた。血漿中およびDRG中の白金濃度と、アセトンテストおよびvon Freyテストの結果を用いてPK-TDモデルを構築したところ、急性末梢神経障害は血漿中の白金濃度と間接反応モデルを、蓄積性末梢神経障害はDRG中の白金濃度とtransit compartmentモデルを用いることで、各々の末梢神経障害の発現時期および障害の程度を定量的に推定できることがわかった。
【結論】PK-TDモデリング&シミュレーションは、FFX投与後のL-OHP誘発性末梢神経障害の発現リスクマネジメントにおいて有用なツールとなることが示唆された。