主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】関節リウマチの治療に用いられるトシリズマブは、インターロイキン-6(IL-6)受容体に結合することでIL-6経路の活性化を抑制し、抗炎症作用を示す。IL-6は薬物代謝酵素であるシトクロムP450(CYP)3Aの発現を低下させるため、強い炎症を有する患者ではCYP3Aを介した薬物代謝能が低下すると考えられている。トシリズマブはIL-6により抑制されていたCYP3Aの活性レベルを正常化する可能性があるが、トシリズマブとIL-6によるCYP3A活性の変動を定量的に評価した報告はない。本研究ではトシリズマブの投与を受ける関節リウマチ患者を対象に、血清中トシリズマブ濃度及びIL-6濃度を測定し、CYP3A活性の内因性指標である血清中4β-水酸化コレステロール(4β-OHC)濃度との関係性について調査した。【方法】対象は浜松医科大学医学部附属病院において、関節リウマチに対してトシリズマブの4~5週に1回の静脈内投与または2週に1回の皮下投与を受ける患者とした。トシリズマブの定常状態における投与直前に採血し、トシリズマブ及びIL-6の血清中濃度を測定した。コレステロールのCYP3A4/5による代謝物である4β-OHCの血清中濃度及びそのコレステロール濃度補正値を評価した。【結果・考察】本研究に登録された患者36名から、入院治療を要する感染症罹患患者1名、肝機能低下(総ビリルビン濃度>2.0 mg/dL)患者3名、強力なCYP3A阻害薬を併用中の患者1名を除外し、31名を解析対象とした。対象の全患者はトシリズマブを6カ月以上継続しており、関節リウマチの寛解状態にあった。一方で、血清中IL-6濃度の中央値は88.0(四分位範囲、52.3-172.4)pg/mLと正常基準値を大きく上回っており、トシリズマブによってIL-6受容体に結合できない遊離型IL-6が血清中で多量に検出されたと考えられた。血清中トシリズマブ濃度の中央値は15.3(9.5-26.8)μg/mLと大きな個人差が確認され、IL-6濃度と有意な正の相関を示した。血清中4β-OHC濃度は39.9(32.5-49.6)ng/mLであり、健康成人における既報値と同程度であった。血清中4β-OHC濃度及びそのコレステロール濃度補正値とトシリズマブ濃度・IL-6濃度との間に関連性は認められなかった。【結論】寛解状態の関節リウマチ患者において、血清中トシリズマブ濃度が高値を示す場合にIL-6濃度の上昇が確認された。CYP3A活性は血清中トシリズマブ濃度及びIL-6濃度と関連しなかった。