主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】腫瘍組織内における不均一性は薬剤耐性を引き起こすため創薬における重要な課題である。腫瘍における低酸素領域は、がん幹細胞や腫瘍微小環境の存在により、機能的に不均一性を生じうる。従来、網羅的な遺伝子解析を中心とした耐性機序の解析が行われてきたが、薬剤分布に基づく解析は未だ十分に実施されていない。酸素飽和度イメージング内視鏡(OXEI)は、従来の形態学評価に加え、腫瘍内およびその周辺部の酸素飽和度をリアルタイムに画像化できる機能診断内視鏡である。トリフルリジン・チピラシル塩酸塩(FTD/TPI)は、FTDがDNA複製時にチミジンの代わりに取り込まれ、DNAの機能障害をきたすことで抗腫瘍作用を発揮する薬剤であり、本邦において進行胃癌・大腸癌の治療薬として承認されているが、耐性機序については未だ解明が不十分である。本研究では、進行胃癌患者に対し、FTD/TPI投与後にOXEIを実施し、腫瘍内の酸素飽和度領域別に取り分けた生検材のFTDの薬剤分布を評価し、FTD/TPIの耐性機序について探索した。【方法】進行胃癌患者に対し、FTD/TPI投与後にOXEIを実施し、酸素飽和度領域別に組織検体を採取した。さらに、組織検体よりDNAを抽出し、DNA中に取り込まれたFTDの濃度を、高感度の液体クロマトグラフ質量分析計により定量化した。統計学的解析はt検定を用いて実施した。【結果・考察】2021年3月から2022年5月末までに進行胃癌患者13例(男性10例、女性3例、年齢中央値71歳)に対し同意を取得し内視鏡を実施された12例を解析対象とした。12例中10例の腫瘍は低酸素領域、等・高酸素領域のそれぞれの領域に分かれており、2例は低酸素領域のみの腫瘍であった。各酸素領域から検体採取が可能であった10例においてDNA中に取り込まれたFTD濃度は、低酸素領域6.67±3.42 μmol/g DNA、等・高酸素領域10.53±4.81 μmol/g DNAであり、等・高酸素領域で有意に高値を示した(p<0.05)。【結論】FTD/TPIは低酸素領域においてDNA中の取り込みが有意に低下し、耐性機序の一因となることが示唆された。OXEIを用いることにより、in vivoで正確な低酸素領域の生検が可能となり、従来困難であったヒト組織レベルでのPK/PD解析による薬剤耐性機序の解明につながる可能性が示唆された。