主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】承認された新医薬品の臨床データパッケージは、薬剤ごとに多種多様な臨床試験から構成されるが、いずれも「固有の特徴・目的を有する当該薬剤の使用が社会に許容される」という共通の判断の根拠となったものである。データパッケージの特徴・ばらつきの分析により、新薬開発規制・承認要件(法制度、ガイドライン等)が想定どおりの機能を果たしているかを検証できるのみならず、社会のリスク受入れにおける暗黙裡の(規制等では明示されていない)前提・常識を浮かび上がらせることができる。【方法】2018-2020年度までに承認された全新有効成分医薬品(112品目)を対象として、臨床データパッケージに含まれる試験の種類・数、有効性・安全性の情報等を収集した。これら変数を用いた多重対応分析及びそれを補完する回帰分析を実施し、データパッケージ構成のばらつきを有意味に解釈するための視点を探索した。【結果・考察】データパッケージ情報のうち、被験者数、第1相試験の実施割合、第3相試験の実施割合などでばらつきが特に大きく確認された。被験者数においては全身用抗感染症治療薬や骨格筋系治療薬でばらつきが大きかった。第1相試験の実施割合においては全身用抗感染症治療薬や抗悪性腫瘍薬と免疫調整薬におけるばらつきが大きく、第3相試験の実施割合では血液と造血器官治療薬や循環器系治療薬のばらつきが大きかった。多重対応分析により寄与の大きな軸(第1軸(寄与率50.7%)と第2軸(同10.8%))が二つ見つかった。第1軸は「第1相から第3相まで順を追って(いわば「新薬開発の伝統的なお作法に則って」)開発を進めている程度」と解釈された。たとえば血液と造血器官治療薬と全身用抗感染症治療薬が軸の対極にあり、必ずしも従来の伝統的な開発の順序に従うことなく社会的必要性に応じた開発方法を許容する判断が表れていると考察した。第2軸は「臨床試験の実施可能性・社会コストの程度」と解釈された。この軸は患者数に基づく臨床試験の実現性に沿って開発を行うことを許容するという価値観の表れであると考察した。【結論】検出された他の軸の解釈と併せ、新薬の承認(許容)に至る判断は、データパッケージ中の試験で示された有効性・安全性や試験数(有効性等の不確実性の程度)のみならず、社会におけるエビデンスの収集様態を踏まえたものであることが示唆された。