主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第43回日本臨床薬理学会学術総会
回次: 43
開催地: 横浜
開催日: 2022/11/30 - 2022/12/03
【目的】抗がん剤の一種である5-フルオロウラシル(5-FU)は、高頻度に下痢を伴う腸炎を誘発し、患者の著しいQOL低下を引き起こす。5-FUによる腸炎の病態には細胞増殖抑制作用やアポトーシス、腸内細菌叢の変化などが報告されているが、予防・治療法の確立には至っていない。近年、アミノ酸による種々の消化管障害に対する有用性が報告されている。グルタミン酸は、食事に含まれるタンパク質中に最も多く含まれ、消化管粘膜局所における機能調節・維持に関与する非必須アミノ酸である。本研究は、グルタミン酸の5-FU誘起小腸炎に対する保護効果を検証し、新たな予防・治療のターゲットを提案することを目的としている。
【方法】雄性C57BL/6Nマウスに5-FUを1日1回連続投与することで5-FU誘起腸炎モデルを作製した。グルタミン酸は5-FU投与開始7日前から1日2回投与を行い、5-FU投与期間中、体重および糞便の状態を経日的に測定した。5-FU最終投与24時間後に回腸組織を摘出し、組織学的および免疫組織学的評価を行った。また、上皮バリア機能については、4kDa FITC標識デキストラン(FD-4)を用いた腸管粘膜透過性試験およびラット小腸上皮細胞株を用いた経上皮電気抵抗値(TEER)測定により検討した。
【結果・考察】5-FUの連続投与により、体重減少および下痢の増悪が観察された。また、5-FUはクリプト構造の破壊により絨毛丈を著しく短縮し、増殖細胞の減少とアポトーシス細胞の増加、腸透過性の上昇をもたらした。グルタミン酸の7日間前投与は、5-FUによる体重減少には有意な影響を与えなかった。一方で、5-FUによる下痢の増悪、小腸絨毛の短縮、増殖細胞の減少およびアポトーシス誘導に対してグルタミン酸は保護効果を示した。また、FD-4の血中への移行は5-FUにより有意に増加したが、グルタミン酸は有意な影響を与えなかったものの、回腸組織へのFD-4の浸潤を軽減していた。TEER測定の結果から、5-FU処置がバリア機能を低下させるのに対して、グルタミン酸前処置は高い上皮バリア機能を維持していることが明らかであった。これらのことから、グルタミン酸は5-FUによるバリア機能破綻に対して主に小腸における保護作用を有することが考えられた。
【結論】グルタミン酸は、5-FU誘起小腸炎に対して保護作用を示すことが示唆された。