主催: 日本臨床薬理学会
【目的】ニフェジピンは欧州では切迫早産治療の推奨薬である。しかし、切迫早産治療におけるニフェジピンの投与量や血中濃度と薬効・副作用との関連性を検討した報告はなく、経験に基づいて治療が行われている。そこで、本研究ではニフェジピンによる妊娠延長効果および副作用で最も頻度が高い頭痛発現に寄与する因子を探索し、有効性・安全性の高い切迫早産治療を行うための指標を明らかにすることを目的とした。【方法】2020年9月~2022年5月にニフェジピンL錠にて治療を行った単胎妊婦を対象とした。入院後リトドリン点滴を開始し、その投与量が100μg/mLを超えた症例に対してニフェジピン内服を20 mg/回、1日4回で開始した(160 mg/日まで増量可)。開始5日目以降に血中濃度を測定し、ノンコンパートメント解析にて薬物動態パラメータを算出した。対象患者を早産と正期産の2群に分け、多変量ロジスティック回帰分析にて正期産到達への予測因子を解析した。頭痛発現に関連する因子についても同様に解析した。さらに正期産到達および頭痛発現に関連する因子についてROC曲線よりカットオフ値を算出した。【結果・考察】38例中32例でニフェジピンのAUCtau等の薬物動態パラメータを算出した。正期産到達への有用な予測因子としてはAUCtauと入院時妊娠週数が同定された。入院時妊娠週数<28週(n=8)、≧28週(n=24)において、正期産到達を予測するAUCtauのカットオフ値は各々139 ng/mL・hr(感度67%, 特異度100%)、111ng/mL・hr(感度100%, 特異度71%)であった。AUCtauは頭痛発現の予測因子としても同定され、カットオフ値は195 ng/mL・hr(感度89%, 特異度100%)であった。また、CtroughとAUCtauは強い正の相関(r=0.922)が認められた。これらの結果より、AUCtauの調整による正期産到達率上昇が見込まれ、採血回数を考慮すると実臨床においてCtroughがAUCtauの代替指標となりうることが示唆された。【結論】ニフェジピンによる切迫早産治療ではAUCtauが正期産到達および頭痛発現抑制への有用な管理指標となる。CtroughをAUCtauの代替指標として用いることで患者負担を軽減した至適投与量への調整が可能となる。