日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-P-D1
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一般演題(ポスター)
癌化学療法で使用される分子標的薬と心血管合併症:後方視的コホート研究
*荒川 泰弘郡司 匡弘志賀 剛
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抄録

【目的】近年、分子標的治療薬の導入により癌化学療法の効果が著しく改善したが、新たな課題も浮かび上がっている。癌化学療法による心血管系の合併症は、以前はアンスラサイクリン系などの細胞障害性抗癌剤が主要な問題だったが、分子標的薬にも心血管合併症のリスクが関連していることが指摘されている。この背景を踏まえ、分子標的薬を含む癌化学療法を受けた患者群における心血管合併症の発生率とその影響を評価した。【方法】本研究は東京慈恵会医科大学附属病院において、2018年1月から2019年12月まで、心血管系の有害事象と関連のある癌化学療法を受けた患者に焦点を当て、後方視的コホート研究として行った。電子カルテから抽出された臨床データに基づき、総症例数905症例のうち分子標的薬を使用している505症例を主な対象とした。心血管合併症の発生を主要エンドポイントとし、関連するリスク要因を評価した。本研究は、東京慈恵会医科大学の倫理委員会の承認を得て実施された [31-469 (10051) ]。【結果・考察】分子標的薬単独もしくは分子標的薬を含む抗癌剤治療を行った550症例で、年齢中央値は62歳 (21-96歳)、男女比は235:315であった。主な癌腫の内訳は、乳癌が136例、卵巣癌が55例、白血病が29例、直腸大腸癌が25例、子宮癌が21例であった。2020年8月までの観察期間中に、心血管系有害事象が16件発生した。具体的な内訳としては、心不全 (EF低下を含む) が11件、不整脈 (心房細動、発作性上室性頻拍) が2件、さらにQT延長、狭心症、肺塞栓症が各1件であった。また、元々心血管系のリスクファクター (高血圧、糖尿病、心疾患) を持つ症例は、心血管系有害事象の発現率が高かった。【結論】分子標的薬を含む癌化学療法は、一定の心血管合併症のリスクが存在する。特に、元々心血管系のリスクファクター (高血圧、糖尿病、心疾患) を持つ症例で、その発現率が高かった。この結果は、分子標的薬を用いる際の心血管系管理の重要性を強調している。今後、より多くの症例と長期間のフォローアップにより、これらの合併症に対するより効果的な予防および管理策を探求する必要がある。

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