主催: 日本臨床薬理学会
【目的】シトクロムP450 2C9(CYP2C9)は複数の薬物を基質とする代謝酵素である。CYP2C9には遺伝子多型があり、機能変化によって酵素活性に変動を及ぼす事が知られており、基質となる薬物を用いた薬物治療においてヒト薬物動態に影響を及ぼすと考えられる。近年、シポニモドはCYP2C9遺伝子多型(*3)を保有する事でCYP2C9*1/*1を保有する場合に比べてAUCが増加するため、CYP2C9遺伝子多型を確認することと記載されている。本研究では、複数のCYP2C9基質薬物について、薬物代謝能のin vitro機能解析を行い、基質薬物間でCYP2C9*3による*1に対する代謝能の変化を検討した。
【方法】CYP2C9*1または*3の配列を含む発現ベクターを293FT細胞にトランスフェクションして細胞培養を行って酵素を発現させ、ミクロソーム画分を抽出した。ミクロソーム画分にCYP2C9基質薬物を加えてインキュベーションして反応させ、産生した水酸化体の濃度をLC-MS/MSにて測定した。CYP2C9基質薬物としては、シポニモド、メロキシカム、フルルビプロフェン、セレコキシブ、ナテグリニド、グリメピリドの6種類について検討を行った。
【結果と考察】CYP2C9.1及び.3酵素を発現させたミクロソーム画分を用いて、in vitroで薬物の酸化酵素活性試験を行い、Km値、Vmax値およびCLint(Vmax/Km)についてCYP2C9.1に対するCYP2C9.3の酸化酵素活性について変化の程度を算出した。Km値は0.14~1.6倍、Vmax値は0.04~0.5倍、CLintは0.3~0.7倍の範囲で変化していた。CYP2C9による酵素活性値の低下による薬物酸化酵素活性への影響は、基質薬物によってその大きさに差がある事が確認された。各薬物のCYP2C9で代謝される割合(fm)は文献値で、約0.7~0.9である。そのため、CYP2C9遺伝子多型によるヒト薬物動態の影響を推定する際には、基質薬物の代謝変化の大きさとfmを考慮する必要があると考えられる。
【結論】CYP2C9.1及び.3酵素のin vitroによる薬物の酸化酵素活性試験の結果より、CYP2C9では遺伝子多型による代謝能の変化には基質薬物によって差がある事が示唆された。