主催: 日本臨床薬理学会
【背景・目的】
プロピレングリコール (PG) およびグリセリン (GLY) は、食品、化粧品、医薬品の添加物に使用されている他、加熱式たばこのエアロゾルを生成する溶媒キャリアとしてなど、幅広い分野で活用されている。PG, GLYの経口・経皮摂取による健康影響については科学的エビデンスが蓄積されており、添加物としての安全性が示されている。しかしながら、吸入(摂取・曝露)による健康影響に関する科学的エビデンスは、経口・経皮摂取によるものに比べて少ない。
本研究は、PGまたはGLY吸入による肺・呼吸器への影響に焦点を当て、環境・職業曝露を含む、PG、GLYエアロゾル吸入に関する公表された文献をレビューし、in vivo, 臨床, 疫学研究から、吸入による健康影響を理解することを目的とした。
【方法】
吸入による健康への影響に関連する研究を特定するため、検索ワードに基づく網羅的文献検索を2023年4月まで実施した。参照データベース(PubMed)を用い、検索ワードには、PG/GLY、環境・職業曝露、電子たばこ、呼吸器系に関連する用語を含めた。本レビューは、in vivo, 臨床、疫学研究におけるPG単独、GLY単独またはPG/GLY混合吸入による健康影響に焦点を当てた査読審査された研究論文を対象とし、総説、解説、学会抄録、症例報告を除外した。
【結果】
検索ワードと合致した1042報の内、in vivo17報, 臨床11報、疫学1報をそれぞれ抽出した。in vivo, 臨床研究より、PG, GLYエアロゾル吸入は、吸湿特性による物理的刺激を伴うが、重大な炎症や肺機能変化には至らないことが示唆された。過去数年に遡って疾患との関連を調査したケースコントロール研究(疫学研究)においては、PG曝露と喘息や鼻炎などのアレルギー性疾患との関連性は示されなかった。また、in vivo遺伝子解析より、脂質・筋原形成や初期の免疫応答への影響が示唆されたが、臨床研究では遺伝子の変動は示されなかった。
【結論】
PGおよびGLY吸入による肺・呼吸器への影響について、in vivo, 臨床研究から重大なものではない可能性が示唆された。また報告数は1報と限られるが疫学研究においても数年単位での重大な影響は認められていなかった。より長期の影響については先行研究がないことから、更なる研究が必要であると考えられる。