日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-S01-3
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シンポジウム
臨床試験の透明性を確保する! ~患者還元の重要性~
*桜井 なおみ
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抄録

私ががんに罹患して間もないとき、介入試験ではないが、医師主導治験に参加をする機会を得た。同意説明文書に基づいて除外条件などの確認があったのちに、参加に際しての約束事、自身にとってのメリット、デメリットのほか、この研究に参加をすることで、未来の患者にも結果が還元されることが述べられた。私の結果は還元されたが、「私たちの結果」、つまり、この研究に参加をした人の全体傾向、エンドポイントがどうなったのかは、あとで偶然みた論文で知ることとなった。このとき、「未来の患者のために」と説明をされながら、その「未来に自分がどう貢献できたかが還元されない」ことに、とても違和感を覚えた。

昨今では、臨床試験のデザインや同意説明文書のレビューなどに、患者や家族が参画をし、体験に基づいた意見や提案を述べる「患者・市民参画(PPI:Patient and Public Involvement)」という概念が我が国においても広がってきている。きっかけとなったのは、2019年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:以下、AMEDと称す)が「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」を発行したことによる。本ガイドブックでは、PPIの定義を「医学研究・臨床試験プロセスの一環として、研究者が患者・市民の知見を参考にすること(※患者・市民:患者、家族、元患者(サバイバー)、未来の患者を想定している)」とし、臨床研究に焦点をあてたPPIを推進している。

研究へのPPI導入のきっかけとなった出来事として、1990年代に起きたHIV・エイズをめぐる患者、市民などの人権擁護、消費者運動がある。この中で展開されたスローガンのひとつに「Nothing about us, without us(私たち抜きに、私たちのことを決めないで)」という言葉がある。これ以降、欧米では、臨床研究の透明性の確保、質の向上や医療の安全性の確保などを目的として、患者の声を創薬段階から、評価、市販後管理にいたるプロセスの中に取り入れていこうという仕組みが生まれている。

レイサマリーもこうした「透明性」確保の一環としての役割が期待されている。わたし自身、いくつかのレイサマリー作成に関与したことがあり、本セッションではそうした私の被験者としての経験、そして、患者支援者のひとりとして、このレイサマリーに期待することを述べたい。

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