日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-S08-2
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抗菌薬臨床試験の実情と課題~医師の立場から~
*細萱 直希
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抄録

抗菌薬開発の歴史は、耐性菌との闘いの歴史でもある。1928年にアレクサンダー・フレミングがペニシリンを発見して以降、非常に多くの優れた抗菌薬が開発され、感染症は克服されたと思われた時代もあった。しかし、ペニシリン発見の間もなくペニシリン耐性ブドウ球菌が出現しており、現在ではカルバペネム耐性腸内細菌科細菌や多剤耐性アシネトバクター属菌等の出現や蔓延は、サイレントパンデミックとして世界的な問題として注目され、WHOは耐性菌に対する世界的な取り組みの必要性を提起している。これらに対し、更なる新薬の開発が求められているが、新薬開発には莫大なコストがかかり、また抗菌薬は高血圧、糖尿病等の慢性疾患に比べて、使用頻度は高くても投与期間が短く、企業にとって開発に係るリスクベネフィットの合わないものであることから、多くの製薬企業は抗菌薬の開発から撤退し、新しい抗菌薬はほとんど上市されない状況に陥っている。

耐性菌に対しては、耐性菌サーベイランス、院内感染対策・制御、抗菌薬適正使用が極めて重要な手段であるが、新規抗菌薬の開発も欠かすことができない。新規抗菌薬開発の必要性については、日本感染症学会や日本化学療法学会を含む複数の学会が繰り返し合同で提言を出しており、先進7か国首脳声明においても新しい抗微生物薬開発を推奨するインセンティブの議論がなされている。日本においても、抗菌薬による治療環境の維持、国際保健に関する議論で主導的な役割を果たすため市場インセンティブの方向性について検討するための事業が進められている。

長崎大学病院では、過去10年間(2013年~2022年)に33件の感染症薬に対する治験に参加しており、顕著な減少傾向はないものの、抗菌薬の治験は明らかに減少している。疾患としては、呼吸器内科が多くの治験に参加しているため呼吸器感染症が中心となっているが、近年は市中肺炎や慢性呼吸器感染症から耐性菌感染症、真菌感染症、ウイルス感染症にシフトしており、耐性菌発生頻度の低さや治験施設と主な診療施設との乖離等から治験の難易度も上がっている。新規抗菌薬開発のためには、我々臨床医としても現場でできることを検討し、臨床試験の効率化を図ってなければならない。今回は、医師の立場からこれまでの治験の経験を振り返り、課題を抽出し、皆様とともに共有することで、対策について検討してみたい。

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