日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_1-C-S08-1
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わが国における抗菌薬開発をいかにして促進するか
*福島 靖正
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抄録

静かなるパンデミックといわれる薬剤耐性(AMR)対策については、2015年5月のWHO総会において「薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プラン」が採択され、我が国でも、2016年4月に開催された「国際的に脅威となる感染症対策関係閣僚会議」において、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」が策定され、AMR対策について政府一体となった取組が進められてきた。同プランは、新型コロナウイルス感染症のまん延の影響により、計画期間が2022年度末まで延長され、本年4月に、更なるAMR対策の推進にあたって、今後5年間で実施すべき事項をまとめた新たな「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」が策定された。

AMR対策において、研究開発及び創薬は大きな柱の一つであり、これまで、薬剤耐性菌バンク(JARBB)の整備、ヒト・動物・環境由来のゲノムデータベースの拡充、医療経済的評価や抗微生物薬の適正使用に関する臨床・疫学研究の推進などに加えて、日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」及び「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」といった、いわゆるプッシュ型インセンティブにより、研究開発及び創薬を促進してきた。今後は、さらに国際共同治験の促進を含め、治験環境の整備を進めていく必要がある。

一方、新規抗菌薬が継続的に上市されるためには、製薬企業が継続的に研究開発を進めることが必要であるが、他方、新規開発が成功し上市されたとしても、不適正な使用が増えれば、耐性微生物が増加してしまう。そうならないためには適正使用が必要だが、同時に市場規模は限定され、抗菌薬開発は製薬企業にとって魅力的でなくなる。上市後の利益予見可能性を高めることが製薬企業の研究開発への動機付けに有効であり、そのための市場インセンティブ(いわゆる、「プル型インセンティブ」)の導入が求められている。米国、英国、スウェーデンなどでは、市場インセンティブが試験的に導入又は検討されつつある。我が国においても、抗菌薬の研究開発を促進する市場インセンティブを実現するための「抗菌薬確保支援事業」を今年度より開始しており、検討会における議論を踏まえ、11月7日に初めて対象企業の選定を行った。今後も、この取り組みを継続していくことが求められる。

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