主催: 日本臨床薬理学会
ランダム化比較試験(RCT)は,EBM(Evidence Based Medicine)においてエビデンスレベルが高い臨床試験デザインとして広範に知られている.RCTでは新治療の既存治療に対するアウトカムの優越性(あるいは非劣性)を評価するために,群毎に計算されたアウトカムの平均の差,すなわち平均治療効果が用いられる.しかしながら,実臨床において,様々な背景情報を持つ当該疾患患者の治療効果(新治療と既存治療のアウトカムの差)が平均治療効果と同じであるとは考えにくい.近年,統計科学あるいは機械学習の分野において,個々の患者に対して治療効果を推定する研究が進んでいる.これらの研究では,患者背景によって条件づけられた形式で治療効果が推定される.これは異質性治療効果(HTE; Heterogeneous Treatment Effect)あるいは条件付き平均治療効果(CATE; Conditional Average Treatment Effect)と呼ばれている.また,条件付き平均治療効果を推定するための統計モデルあるいは機械学習モデルは,治療効果モデルと呼ばれている.
近年,アンメット・メディカル・ニーズ,あるいは個別化医療の観点から,リアルワールドデータ (RWD; Real World Data)の利活用に関するニーズが高まっている.RWDは,観察研究(研究目的での介入を伴わない研究)の形式で得られることが多い.このような場合,RCTのような,unconfoundedness assumption (治療選択に共変量が影響を及ぼさないという仮定)が満たされないため,平均治療効果をアウトカムの群間差で定義することができない.この課題は,異質性治療効果においても同様である.最近の治療効果モデルの研究では,RWDへの応用が想定されており,傾向スコア分析における逆確率重み付け(IPW; Inverse Probability Weighting)を導入した方法が数多く提案されている.
本講演では,ATEおよびHTEの定義をわかりやすく説明するとともに,代表的な治療効果を略説する.このとき,観察研究のための傾向スコアによる調整の方法についても言及する.これらの方法の応用については,実際の臨床データへの適用に基づいて説明する.