主催: 日本臨床薬理学会
ランダム化を行わない観察臨床研究における治療効果の推測において,最も重要な問題の一つが交絡バイアスである.交絡バイアスの調整法としては,傾向スコアに基づく解析がしばしば用いられる.治療群と対照群の2群比較の文脈において,傾向スコアは共変量のセットを与えた下での治療群に割り付けられる確率として定義される.
傾向スコアに基づく解析は,最近では標準的な統計ソフトウェアでも実装されており,統計を専門としない研究者も容易に利用できるようになった.しかしながら,解析の背後にある理論は統計的因果推論を用いて構築されており,十分に理解しないまま用いることで,解析結果を誤って解釈したり,大きなバイアスをもった推定値を報告してしまったりする恐れもある.
本講演では,傾向スコア解析の背後にある基礎的な統計的因果推論に関する理論から解析方法,結果の解釈についてを解説する.傾向スコアに基づく交絡調整の解析は1.マッチング,2.重み付け解析,3.層別解析,4.スコアを共変量としたモデル解析などが行われることが多いが,主に1,2に焦点を当てる.重み付き解析においては,最近注目されているoverlap weightingなど最新の話題についても触れる.