日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_2-C-S17-2
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シンポジウム
ラスビックの肺胞被覆液移行メカニズムの解明
*大箭 考平
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抄録

ラスビック(Lascufloxacin; LSFX)は、市中肺炎起因菌に対して高い抗菌活性を有する新規キノロン薬として開発された。本薬を用いた肺内薬物動態試験において、薬効発現部位である肺胞被覆液(ELF)中への本薬の移行性は対血漿中濃度比で平均15.0~22.4であり、他のキノロンと比べ優れた移行性を示すことが明らかとなった(Furuie H. Antimicrob Agents Chemother. 2018;62(4):e02169-17)。一般的に薬物の組織への特異的な分布には、担体を介した能動輸送、組織中成分への結合、といったメカニズムが存在する。レスピラトリーキノロンのELF移行には、担体介在輸送の関与が知られ(Brillault J. Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(1):543-5)、Grepafloxacin(GPFX)等の塩基性薬物においては、組織中成分との特異的な結合が肺移行に関与し、その成分の特異的な発現や存在率が薬物の分布に影響するという報告がある(Suzuki T. Drug Metab Dispos. 2002;30(12):1393-9)。本研究ではLSFXの高い肺移行性に上記メカニズムが関与しているとの仮説に基づき、以下のin vitro試験を実施した。

LSFXは担体を介した能動輸送の関与が示唆されたが、肺移行性の異なる薬剤と比較しても明確な相関性はみられず、LSFXの高い肺移行性は能動輸送のみで説明し得るものではないと考えられた。

ELF中成分との結合については、肺サーファクタント製剤にLSFXを添加すると、肺移行性の異なる類剤と比較して有意に高い結合性を示したことから、肺サーファクタントの主成分であるリン脂質との結合性に着目した。各種リン脂質とLSFX及び類剤の結合性について検討したところ、LSFXはホスファチジルセリン(PhS)と特異的に結合し、その結合能はLSFX、Levofloxacin、Garenoxacin及びGPFXでそれぞれ10.6、0.925、1.63及び1.21 mL/mg lipidと有意に高かった。またこの結合は不可逆的なものではなく、抗菌力に影響を与えなかった。他臓器と比較すると肺はPhSを多く含み、LSFXはそのPhSに他剤より高い結合性を示すことから、この特徴がLSFXの高い肺移行性を示す一因であると考えられた。

LSFXが高い肺移行性を示すメカニズムは、担体を介した能動輸送よりも、ELF中のPhSへの結合性の高さが重要な要因であると考えられた。LSFXの標的臓器への選択的なドラッグデリバリーは、本剤が高い治癒率、低用量、高い安全性を示す裏付けとなり、本研究はそのメカニズム解明の一助になったものと思われる。

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