日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_2-C-S18-1
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シンポジウム
地域医療における臨床薬理の貢献
*甲斐 恵
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抄録

地域医療とは,地方や僻地で行われる医療に限らず,どの地域でも実践されるべき「地域住民の健康を支える医療」と定義される.

我が国の高齢化は都市部を含めたあらゆる地域で急速に進行しており,包括的医療を計画・実践する地域医療が社会において担う役割は今後一層大きくなると予想される. また,疾患特異性のみならず,年齢や基礎疾患など個々の病態背景を加味した個別化医療を推進する動きと共に,臨床薬理を活用した適切な薬物治療を実践する重要性が増している. しかし,地域医療を担う医師にとって臨床薬理学的知識が個別化医療の実践に有用であることは感じつつも,実際に知識を習得し日々の診療で活用するに至る医師は少なく,臨床薬理を地域医療の中で活用していくためには臨床薬理を専門とする医師が積極的に介入していく必要がある.

まず取り組むべきは臨床薬理学的知識を一般化させることである. 地域医療を担う現場の医師にとって最も身近な薬の情報ツールは薬剤の添付文書である. 居住地域や医療機関によらず,適切な薬物治療を実践するためにも添付文書は必須のツールと言えるが,残念ながら全ての医師が医学教育の中で添付文書を読み解く教育を受けているわけではない. 特に薬の特性(薬物動態)や病態時に薬剤を投与する際の注意点など,個別化医療の実践には添付文書全体を正しく理解できる知識が必要であり,より実践に即したかたちで臨床薬理学的知識を広め、支援することが臨床薬理を専門とする医師が果たすべき大きな役割のひとつである.

もうひとつは個別化医療の実践面での介入である. 処方薬の内容を見直すことに始まり,ポリファーマシーの洗い出し,薬物有害反応のリスク評価,在宅医療におけるDx活用など,個々の患者の健康増進を目指す医療を臨床薬理の視点からサポートすることが可能である. しかし,臨床薬理を専門とする医師の多くは大学病院等の基幹病院に所属しており,どのような側面で地域医療に貢献できるか自体を十分に把握できていない可能性がある. まずは地域医療との距離を縮め,現場を知り,地域医療に携わる医師との連携を強めて地域医療の現場が臨床薬理を専門とする医師をうまく活用できる環境構築に取り組むことが最優先事項となるであろう.

急速に進行する高齢化に対応するために地域医療の充実が求められているが,そこに臨床薬理がどう貢献できるかを考え,議論できるミニシンポジウムとなれば幸いである.

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