主催: 日本臨床薬理学会
気管支喘息(喘息)治療の中心は薬物療法であり、薬物療法の進歩に伴い喘息管理は近年各段に改善した。喘息は、古くは気道の狭窄と考えられ、気道狭窄の改善を目的とした気管支拡張薬が治療の中心であったが、気道の慢性炎症が病態の主体であることが判明し、治療標的を気道炎症とするパラダイムシフトが起きた。喘息の気道炎症に対する最も効果的な抗炎症薬はステロイド薬であるが、他剤形と比べ副作用が少ない吸入ステロイド(ICS)が薬物療法の中心として位置づけられている。喘息の管理目標は「症状のコントロール」と「将来のリスク回避」の2点に集約されるが、ICSの普及は喘息患者の症状コントロールを著しく改善した。また、将来リスクの中でも特に重要な「喘息死」は1990年代までは年間6,000人を上回っていたが、ICSの普及などにより、喘息死は激減し、最近では1,000人程度にまで減少した。喘息の治療薬は長期管理のために継続的に使用する薬剤である「長期管理薬」と喘息増悪治療のために短期的に使用する薬剤である「増悪治療薬」に大別される。ガイドライン上、成人喘息のいずれのステップにおいても長期管理薬としてICSの使用が推奨されている。ICS単剤と比べてICS/長時間作用性β2刺激薬(LABA)配合剤は症状や呼吸機能をより速やかに改善することが証明されており、ICSのみではコントロールが不十分な場合には、ICSとLABAの併用が推奨されている。さらに不十分であれば、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の吸入などを併用することを推奨している。一方で、増悪治療薬としては短時間作用性β2刺激薬(SABA)の吸入が基本となる。
このように喘息管理は薬物療法の進歩に伴い著しく改善したが、とりわけICSをはじめとした吸入療法の果たす役割が極めて大きいことがわかる。吸入療法は肺局所を治療標的とした薬物送達システムであり、全身投与と比較し、少ない用量で十分な効果が期待でき、全身性の副作用が少ないことが特徴である。一方で、吸入剤は適切に吸入することではじめて効果が発揮されるため、吸入指導をはじめとした患者教育が重要である。また、吸入剤にはドライパウダーとエアロゾル製剤があるが、患者特性に合わせ使い分ける必要がある。本シンポジウムでは喘息治療における吸入剤の役割、実臨床における吸入剤の使い方、及び吸入指導を中心に講演を行う。