主催: 日本臨床薬理学会
1980年代以降、喘息治療は大きく進展し、吸入薬などのデバイスを含めた改良により、多くの患者で良好なコントロールが可能となった。しかし標準的治療を行ってもコントロールが困難な重症喘息が5-10%に存在し、これらの症例では生物学的製剤の治療を考慮する。
喘息領域における生物学的製剤の歴史は2009年に認可されたオマリズマブに始まる。以降、フェノタイプによる層別化に基づいて生物学的製剤の開発が進み、現在、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)、抗TSLP抗体(テゼペルマブ)の5種の生物学的製剤が使用可能である。
生物学的製剤は、ある特定の分子をターゲットとした治療であることから、その効果を事前に予測するためのバイオマーカーに基づいて投与対象を絞り込む必要がある。抗TSLP抗体以前の薬剤は2型炎症をターゲットとしており、バイオマーカーとして末梢血好酸球数、FeNO、血清IgEなどが使用される。抗TSLP抗体も、血中好酸球数やFeNOが高値である方が増悪抑制効果が高い傾向にあるが、低値群でも増悪抑制が確認されており、2型と非2型どちらのタイプの重症喘息に対しても治療オプションとなる可能性がある。生物学的製剤は適応がオーバーラップすることがしばしばあるため、ベストと思われる薬剤の選択が難しいことがある。また、はじめに選択した薬剤の効果が不十分である場合、他剤へのスイッチが必要となるが、その目安となるガイドラインは存在していない。生物学的製剤は喘息以外の疾患で適応を有しているものもあり、オマリズマブは、特発性蕁麻疹と季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症)に、メポリズマブは好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、デュピルマブはアトピー性皮膚炎と慢性好酸球性副鼻腔炎に適応疾患を有する。このように併存病態も薬剤選択時の判断指標となる。
現在5種の生物学的製剤が登場し、2型炎症に有効性が高い傾向はあるが、表現型によらずいずれかの薬剤を使用することができるようになった。Clinical Remissionという治療下での寛解を目指すことが重症喘息の現実的な治療目標としてあげられるようになった今、治療の開始時期や中止時期の判定など、より喘息の長期経過を見据えた生物学的製剤治療の位置付けを明らかにすることが今後の課題である。