主催: 日本臨床薬理学会
ポリファーマシーの問題を考える上で、薬物相互作用の観点は不可欠である。特に、ポリファーマシーが問題となる疾患領域の神経・精神分野では、様々な薬物相互作用が報告されている。ほとんどの向精神薬は、CYP等の薬物代謝酵素やP糖蛋白の基質であり、一部は阻害薬又は誘導薬であるため、これらを介した薬物動態学的な相互作用が問題となる。例えば、バルプロ酸ナトリウム併用による血中ラモトリギン濃度の上昇と、それに伴う重篤な皮膚障害の発現のように、致死的な事象をきたす場合もあることから、その予測と回避が重要である。
薬力学的相互作用として、神経・精神分野では選択的セロトニン再取り込み阻害薬と非ステロイド性抗炎症薬や抗血小板薬との併用による消化管出血等が有名である。我々は、高齢入院者では嚥下障害リスクが処方薬剤数の増加に伴って上昇することを証明したが(Takata et al. BMC Geriatr 2020)、多様な患者背景により必要な薬が患者毎に大きく異なるため、減薬すべき薬剤の特定には至っていなかった。そこで、膨大な情報処理が可能な機械学習を用いて、適切な減薬法を提案するための予測モデル構築を試みたところ、いくつかの薬剤の服用が、経管栄養からの未回復と強く関連することを見出した。このように神経・精神科薬の有害反応を回避する上で、薬力学的相互作用の予測も重要である。一方で、統合失調症患者では、単剤治療よりも多剤併用療法の方が心血管疾患等による入院リスクが少ないとの報告もあり(Taipale et al. Am J Psychiatry 2023)、治療を最適化する上でどのような薬剤の組み合わせを回避すべきなのかについては、今後の検討が待たれる。
近年、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴って様々なCOVID-19治療薬が上市されてきた。COVID-19患者では抑うつや不安などの精神症状を併発するリスクが高く、向精神薬が処方されるケースがあるため、向精神薬とCOVID-19治療薬との薬物動態学的並びに薬力学的相互作用にも注意が必要である(Plasencia-Garcia et al. Psychopharmacology 2021; 同 Pharmacopsychiatry 2022)。
本発表では、薬物相互作用に関する最新の知見も提示しながら、神経・精神科分野におけるポリファーマシー/不適切多剤併用の現状と解決法について議論する予定である。