主催: 日本臨床薬理学会
アルツハイマー病、パーキンソン病、ポリグルタミン(PolyQ)病などの多くの神経変性疾患において、タンパク質のミスフォールディング・凝集が神経変性を引き起こすという共通の発症分子メカニズムが考えられている。このうちPolyQ病は、様々な原因遺伝子内のグルタミンをコードするCAGリピート配列の異常伸長(>40回)という共通の遺伝子変異を原因とするハンチントン病、様々な脊髄小脳失調症など9疾患の総称である。PolyQ病では、変異遺伝子から翻訳されるPolyQ鎖の異常伸長を持つ変異タンパク質がミスフォールディングを生じて凝集体を形成し、その結果神経細胞内に封入体として蓄積し、最終的に神経変性を引き起こすと考えられている。
私たちは、異常伸長PolyQタンパク質のミスフォールディング・凝集を治療標的として、低分子化合物ライブラリー(46,000化合物)からのハイスループットスクリーニングを行い、約100個の新規PolyQ凝集阻害化合物を同定した。そのうち、人体への安全性、高い脳内移行性が示されている既存認可薬であり、タンパク質構造を安定化する化学シャペロン作用が知られているアルギニンに着目して研究を進めた。そして、試験管内実験にてアルギニンが異常伸長PolyQタンパク質のβシート構造への異常コンフォメーション転移を阻害して、凝集を阻害することを見出した。次に、PolyQ病モデル培養細胞にアルギニンを添加したところ、細胞内でのPolyQタンパク質のオリゴマー形成が抑制されることを確認した。次に、PolyQ病モデルショウジョウバエを用いてアルギニンのin vivoでの有効性を検証したところ、アルギニンの投与によりPolyQタンパク質の封入体形成、複眼変性が抑制されることを明らかにした。続いて、2種類のPolyQ病モデルマウスにアルギニンを経口投与したところ、PolyQタンパク質封入体および神経変性、運動障害が抑制されることを明らかにした。さらに、発症後からのアルギニン投与でも運動障害の抑制効果を確認した。以上の結果から、既存認可薬アルギニンのPolyQ病に対する疾患修飾治療効果が明らかになり、新潟大学脳神経内科・小野寺理教授らと共にPolyQ 病患者に対するアルギニンの医師主導治験を実施した。本治験の結果は、近日中に公表される見込みである。