主催: 日本臨床薬理学会
【目的】タクロリムス(FK506)が開発され移植腎の短期的な生着率は飛躍的に向上したが、FK506による慢性腎障害(タクロリムス腎症)は移植腎の長期的な生着の弊害となっている。タクロリムス腎症では尿細管および間質の線維化が生じるとされるが、その発症機序は殆ど明らかにされていない。本研究ではFK506投与による腎組織内の代謝変動に着目し、タクロリムス腎症の機序解明を試みた。
【方法】雄性7週齢ICRマウスに0.01%低ナトリウム食を自由摂取させた。7日後にマウスを2群に分け、FK506群には1mg/kg/day相当のFK506を浸透圧ポンプにて28日間持続皮下投与し、対照群には生理食塩水を同様の方法で投与した。投与完了後に腎組織を採取し、マッソン・トリクローム染色と定量的PCR(RT-qPCR)にて両群の腎障害の有無を評価した。また、キャピラリー電気泳動・フーリエ変換型質量分析計により腎組織に対するメタボローム解析を行った。
【結果・考察】腎採取時のマウスの体重は両群間で有意差を認めなかった。FK506群では病理組織学的に尿細管と間質に線維化がみられた。RT-qPCRでは尿細管・間質の線維化マーカーであるActa2と、尿細管障害マーカーであるKim1がFK506群にて対照群に対し有意に高値であった。メタボローム解析では65種類の代謝物に有意差を認めた。そのうち18種類がアシルカルニチンを含めたカルニチン関連代謝物であり、最大の割合(約3割)を占めた。これら全てのカルニチン関連代謝物はFK506群にて対照群と比較し、有意に低値であった。このことはカルニチンの不足がタクロリムス腎症の病態において主要な役割を果たすことを示唆している。また、両群で体重に有意差はないため、FK506群におけるカルニチン低値は摂取量に起因するものではなく、生体内での合成や再吸収の障害によるものと推察される。カルニチンは脂肪酸のβ酸化に必須の代謝物であり、ミトコンドリアの保護作用もあるため、カルニチン減少によるβ酸化の抑制やミトコンドリアの機能低下がFK506による腎障害の原因となった可能性がある。
【結論】メタボローム解析を活用し、タクロリムスが慢性腎障害を引き起こす機序の一部を明らかにした。今後、カルニチン及びその関連代謝物に着目して、タクロリムス腎症の発症機序のさらなる解明を進めたい。