日本臨床薬理学会学術総会抄録集
Online ISSN : 2436-5580
第44回日本臨床薬理学会学術総会
セッションID: 44_3-C-S38-5
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シンポジウム
心房細動に対する抗凝固薬の進歩~ワルファリンから直接経口抗凝固薬の時代へ~
*小谷 英太郎
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抄録

心房細動治療における抗血栓療法には抗凝固療法と抗血小板療法が含まれる。抗血小板療法については、心房細動治療(薬物)治療ガイドライン(2008年改訂版)からアスピリンが推奨薬から外れたため、心房細動治療における抗血栓療法は、原則的に抗凝固療法を意味する。

抗凝固療法については、直接経口抗凝固薬(DOAC)の発売以前はワルファリンがわが国で唯一の経口抗凝固薬であったが、狭い治療域、頻回な凝固モニタリング、ビタミンK含有食品の制限、多数の薬物相互作用など、実臨床で投与を躊躇させる多くの欠点が存在した。2011年3月以降、これらのワルファリンの欠点を克服すべく開発されたDOACが順次上市され、抗凝固療法には大きなパラダイムシフトが起こった。DOACは単独の凝固因子(IIまたはXa因子)を間歇的に阻害することにより、生理的凝固阻止因子(プロテインC・Sなど)に対する影響がほぼなく抗凝固作用を発揮するため、出血時には生理的な止血機転が働くことがわかっている。その結果、大出血、特に頭蓋内出血の発生頻度が総じて低率であり、もし頭蓋内出血が生じた場合でもワルファリン比べ出血量が少なく軽症との報告が多い。そのため、ガイドライン(2013年改訂版)では、同等レベルの適応がある場合DOACがワルファリンよりも望ましいと位置づけられた。2013年改訂版では、DOACの第III相試験の対象症例の違いからCHADS 2スコア別の推奨度がDOACにより異なっていたが、その後にわが国で実施されたDOACの市販後調査の結果などから、不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)では、4つのDOACは全てCHADS2スコア1点以上で推奨とされた。

しかし、薬事承認の根拠となった第III相試験では、実臨床では高頻度に遭遇する出血や死亡リスクが高い例(抗血小板薬2剤併用、管理不良高血圧、高度肝・腎機能障害、貧血など)は除外されているため、これらの試験結果を超高齢社会であるわが国の心房細動患者にそのまま外挿すことは危険である。そのような観点から、わが国では高齢者に特化した重要な3つの臨床研究(ANAFIEレジストリ、J-ELD AFレジストリ、ELDERCARE-AF試験)が実施された。このうち、プラセボとのニ重盲検試験であるELDERCARE-AF試験の結果を基に、2021年9月より、わが国において低用量エドキサバン(15mg)が80歳以上の高出血リスク例に対して承認された。

以上の抗凝固療法の歴史とともにその薬理作用について解説したい。

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