主催: 日本臨床薬理学会
会議名: 第46回日本臨床薬理学会学術総会
開催地: 東京都千代田区
開催日: 2025/12/05 - 2025/12/06
p. 37-
薬物性肝障害(DILI)の大部分は特異体質性に発症し、idiosyncratic DILI(iDILI)と呼ばれる。その臨床像は獲得免疫、特にCD8+T細胞の肝浸潤が特徴的である。発症機序は自然免疫と獲得免疫の協調によるT細胞の最終的な活性化で説明されるが、非臨床段階でリスク薬物を検出することは依然として困難である。通常の動物投与試験では獲得免疫が誘導されず、現行の評価系は肝細胞障害や自然免疫活性化の指標にとどまっているためである。その結果、臨床試験段階でiDILIにより開発中止となる薬物も少なくない。 我々はHLAトランスジェニックマウスを用い、獲得免疫を介したiDILIモデルの構築に取り組んできた。薬物がHLAを介したT細胞活性化に関与することが病態の核心であると考え、まずHLA-B*57:01依存的な分子機序が解明されているアバカビル過敏症をモデルに検討を行った。その結果、HLA多型のみでは発症に至らず、免疫抑制機構の解除が強い応答に不可欠であることを示した。さらにこの知見を応用し、フルクロキサシリン誘発性肝障害モデルの構築を試みたが、CD8+T細胞の活性化までは確認できたものの、肝障害の再現には至らなかった。一方、他の研究グループも同様の遺伝子改変マウスを用いて本課題に取り組み、クッパー細胞や類洞内皮細胞による免疫抑制を除去した条件下で、初めてフルクロキサシリンによるT細胞依存的な肝細胞死が再現されたと報告している。 現在までに複数のHLA多型とiDILIとの関連が報告されているが、保有者全例が発症するわけではなく、他の要因との相互作用が不可欠である。HLAによる抗原提示の機序としてはハプテン仮説などが提唱されているが、肝障害全般に適用できるかは未解明である。iDILIの発症機序を解明するには、臨床病態を反映したモデルの構築が不可欠である。特に、HLA/MHC依存的な獲得免疫の活性化とCD8⁺T細胞が関与する肝障害を再現する動物モデルを用いた機序解析が重要であり、そこで得られた知見を単純化して応用可能な非臨床評価系へ展開することが今後求められる。本講演では、こうした背景を踏まえ、iDILIを動物で再現しようとした研究事例を中心に紹介する。