社会学評論
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オーストラリア先住民教育の変化と行方
下村 隆之
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2007 年 58 巻 2 号 p. 188-204

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抄録

本稿は,オーストラリア先住民の教育現状に焦点をあてた研究である.中でも,近年政府は教育プログラムを改訂するなど先住民教育には大きな変化が見られている.このような先住民教育の変化が,先住民の教育環境にいかなる影響を与えているのかさまざまな角度から分析を試みた.現地調査も実施し,改革がもたらす功罪について教育現場での課題を抽出している.
特徴は,政府の先住民教育プログラムは学力の向上を目的としたプログラムに重点を置いていることである.かつてのような先住民の保護者やコミュニティの人々を学校教育に受け入れ,彼らの自主性を重んじるプログラムは縮小された.また,先住民の教育スタッフも先住民生徒の増加率と比較すると顕著な増加はなく,実質的に先住民を教育に取り込んでいく姿勢は後退している傾向がある.
このような傾向から,多くの先住民が学校教育に期待している先住民としてのアイデンティティの確立と学力の向上を両立させることに関して,それを憂慮する声が導き出された.先住民の文化や自立性に十分に配慮せず,学力向上に重点的な教育の視点がおかれるならば,かつての同化教育を先住民に思い起こさせる危惧があることが示唆された.学力向上のプログラムが重視される傾向は,多文化教育に見られる変容と類似しており,先住民教育は包括的に多文化主義の変容とグローバル化の影響を受け保守化し後退している特徴がある.

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© 2007 日本社会学会
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