抄録
多くの人が「自分・家族・友人」という身近な世界にしか関心がなくなりつつある現代において,常に大きな世界との関連を視野に入れる社会学の思考法は,その重要性を増してきている.本稿は,そうした社会学的思考法を,社会学を専攻する大学生に対して,どのように教育していくことによって,効果的に身につけさせられるかを,筆者の教育実践にもとづいて述べた論考である.
すべての社会学関連授業が重要なのはもちろんであるが,特に最初に社会学と出会う導入教育が重要である.名前だけは知られているが,イメージのつかみにくい社会学という学問を最初にどのように理解させることができるかで,その後の社会学への取り組み方は大きく異なってくる.入門講義では身近な問題と社会がつながっていることを明示し,基礎的演習系授業では社会学的思考訓練のために素朴であっても実際に自分たちで研究を行うことが重要である.導入教育後の専門講義科目では明確で一貫した筋を示すこと,専門演習や卒業論文の指導においては労力を厭わない丁寧なアドバイスをすることが不可欠である.
こうした社会学教育をしっかり受け止めて大学を卒業する若者は,健全な社会批判精神をもった社会のメンバーになりうると言っても過言ではない.しかし,そのためには,社会学者の間での社会学に対する共通理解を高める努力もまたより必要となってくるであろう.