抄録
本稿の目的は,人口高齢化と経済格差の関係について,マクロな経済状況とも関連させて,3時点の時系列比較を通して検討することにある.ここでの論点は3つある.第1に,1980年代半ば以降の所得格差の変化に対する評価についてであり,第2に,所得格差の変化と人口高齢化について,そして第3に暮らし向き意識に着目して,実態と意識の乖離を考察する.
本分析で用いるデータは,1986年,1995年,2004年の3時点の「国民生活基礎調査所得票」(厚生労働省)である.これら3時点は,バブル経済突入時,バブル経済崩壊後「失われた10年」の最中,そして平成不況後に対応する.第1の分析については,80年代半ば以降,変化の程度は最近小さくなっているものの,2000年代半ばまで所得格差は拡大したと確認された.第2に,所得格差拡大の要因を「年齢階層内効果」「人口構造効果」「年齢階層間効果」に分解して,それぞれ2時点比較を行った結果,90年代から2000年代半ばにかけて,80年代半ばから90年代半ばと同様に,格差拡大の多くを人口構造効果によって説明できることが確認された.
最後に,近年,全体として暮らし向き意識は悪化しているが,意識の規定構造そのものは1980年代以降大きな変化はない.一方,働き盛りの40代層,50代層で,実態以上に生活の苦しさ意識の上昇がめだった.