抄録
転職におけるネットワークの効果に関する研究は,情報伝達や影響力の発揮などを通じて諸個人に地位上昇や所得増加の機会をもたらす「地位達成効果」の検討を中心としてきた.しかし,諸個人の職業キャリアにはさまざまな局面が存在する.その中には倒産やリストラなどの不測の事態に遭遇し,キャリアの立て直しを余儀なくされている人もいるはずである.このような人々にとっては,良い機会を手に入れて高い地位に到達することよりも,不安定雇用を回避することが重要になるだろう.本稿では,倒産やリストラなどの不測の事態に遭遇した人々の不安定雇用の回避に寄与するネットワークの効果を「セーフティネット効果」とし,転職のさいに用いられるネットワークの地位達成効果とセーフティネット効果に注目して分析を行った.なお,前者の分析では職業威信スコアを,後者の分析では従業上の地位(非正規雇用か否か)を従属変数として用いている.
分析の結果,転職のさいに用いられるネットワークは,リストラや倒産といった会社の都合により非自発的に離職せざるをえなかった人々の不安定雇用の回避に寄与するセーフティネット効果を示し,その中心は血縁関係が担っていた.一方,諸個人の地位上昇に寄与する地位達成効果は見られなかった.したがって,現在の日本において転職のさいに用いられるネットワークは,地位達成効果よりもむしろ,セーフティネットの効果を有していると言えよう.