抄録
本稿では,科学技術に対する態度におけるDK(don't know,「分からない」)回答の意味を質問紙調査から明らかにする.筆者らは2004年に「バイオテクノロジーに関する意識調査」を日本で実施し,541名の成人男女から回答を得た.数量化III類を用いてDK回答の出現パタンを分析した結果,(1)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸から独立して分離するパタン(疎外的DK)と,(2)DK回答群が肯定的回答群/否定的回答群の軸の中に位置づけられるパタン(両義的DK)が見出された.疎外的DKを顕著に示す層は知識量が相対的に少ないという特徴をもっていた.一方,両義的DKの出現は,回答者個人の知識の多寡によらず,科学技術の問題を消費者個人の選好や利用行動に内在化させる質問状況で顕在化していた.2つのDKの意味は,それぞれ,科学技術という主題における主体的かつ二分法的態度をもつ市民像の問題点を示し,社会的意思決定プロセスでの意識調査の位置づけに再考を迫るものである.