社会学評論
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日系ペルー人の「監視の経験」のリアリティ
〈転移〉する空間の管理者に着目して
稲津 秀樹
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2010 年 61 巻 1 号 p. 19-36

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抄録

本稿では,非集住地域に居住する日系ペルー人の生活世界への参与観察に基づいた,彼・彼女らの「監視の経験」を取り上げ,そこに存在する権力の構成を示す視座を提供することを目的とするものである.これまで監視に関する彼らの言明は,精神医学的な知見から「妄想」とみなされてきた故に,移民と監視を巡る研究は国境管理政策の分析に終始していた.そこでは都市における監視社会化の流れも含めた,移民にとっての監視社会の展開を日常的な視点から捉えかえす視点に欠けていたと言える.従って本稿では,監視の経験=関係妄想とする主張をまず批判した上で,調査に基づく彼らの経験を,ガッサン・ハージが説く「空間の管理者」概念を援用しながら分析する方法を採った.空間の管理者とは,移民を空間的に管理する意識をもち,かつそうした態度を取る権利を有する者のことを指している.日系ペルー人への個々の聞き取りから浮かび上がるのは,過去/近い将来における空間の管理者との出会いを想起/予期する経験,更には,空間の管理者として振る舞う日本人との関係を築く過程で自らも管理者として他者と接する経験であった.そして,ある語りの中で,それらの経験が重層的にあらわれている点に着目し,日系ペルー人にとっての権力作動の要諦を,彼らの意識における空間の管理者が,時間/民族間を2つの意味で〈転移〉している点にあることを指摘した.

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© 2010 日本社会学会
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