抄録
日本では戦後造林された人工林が成長し,多くの森林資源が蓄積されているにもかかわらず,それが資源として利用されていないことに起因した森林管理問題が発生している.この問題の一因に素材生産部門の生産性の低さがあると考えられる.本研究では,最初に,戦後造林地である秋田県仙北市における6社の素材生産業者を対象とした調査に基づいて,素材生産業者の伐採契約の相手である森林所有者とのネットワークと森林管理問題との関連について検討した.つづいてネットワーク効果のメカニズムと,森林管理問題の解消にとって好ましいネットワークのあり方について考察した.
調査から,伐採契約を結ぶ際に将来の継続的な契約を前提としないような弱い紐帯,それとも関連する,契約相手の森林所有者同士が互いに知り合いではないような開放的なネットワークを利用している素材生産業者は,そうでない業者と比較して高い生産性を達成することが可能であることが明らかになった.また,これらの結果と古くからの林業地を調査対象とした大倉(2006)との比較から,森林管理問題の解消にとって好ましいネットワークは,不確実性の所在と達成すべきパフォーマンスの種類によって異なるという示唆が得られた.