抄録
父職のみで出身階層を測る「伝統的アプローチ」に基づいて, これまで世代間移動研究では, 相対移動パターンの国際的共通性という知見が蓄積されてきた. しかし近年になって, 世代間移動における母職の役割が見直され, それを含めた分析では実質的な結論が変わりうることが報告された. それを受けて, 本稿では, 日本, 韓国, 台湾の大規模調査データを用いて, 出身階層の測定において母職を含めた移動表分析をおこない, 従来どおりの知見が得られるかどうか追試をおこなった. その結果として, (1) 日本の, 特に男性では, 「伝統的アプローチ」によっても, 世代間の相対移動はまずまず説明できる, (2) 日本でも, 父階層に加えて母階層の情報をも用いて出身階層を測定したほうが, より世代間移動を適切にとらえられる, (3) 女性に関してのみ, 父母双方の階層を用いた場合において相対移動パターンに国・地域間の違いがみられ, その知見は出身階層として父階層のみを用いたときの結果とは異なる, という諸点が明らかになった. 男性における相対移動の構造的安定性が再確認された一方で, 女性においては母職を考慮することで移動の構造に異質性が見出される可能性があることがわかった.