社会学評論
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特集・複合社会調査データ分析の新展開
日韓のナショナル・アイデンティティの概念構造の不変性と異質性の検討
ISSP2003データを用いた多母集団共分散構造分析
田辺 俊介
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2011 年 62 巻 3 号 p. 284-300

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抄録

本稿は, 日本と韓国のナショナル・アイデンティティの概念構造について, 共分散構造分析の内の多母集団同時分析を用いることで, その共通点と相違点を実証的に検討するものである. 先行研究を参考に, ナショナル・アイデンティティを構成する概念の中から, (1) ネーションの成員条件, (2) ナショナル・プライド, (3) 排外性の3概念を取り上げ, その概念を構成する要素の異同について, ISSP2003の“National Identity”調査の日本・韓国データを用いて分析した. 分析の結果, まず日本と韓国のネーションの成員条件が1次元であることが示された. この点は, 日本と韓国でともに「単一民族国家」の神話が普及していることの影響と考えられる. また政治的ナショナル・プライドと排外性のあいだの関連は, ほとんどの西欧諸国では「負の関連」であるのに対し, 日本と韓国では「正の関連」であった. この点は両国に共通する権威主義体制の経験から, 国の政治的な側面へのプライドが権威主義体制への支持を連想させ, 異質な他者である外国人の排除に結びつきやすいことを示す結果と解釈できよう. さらに軍事力や歴史に対するプライドの位置づけが日本と韓国で異なることが示され, その点から日韓の歴史的経験の差異が現在の人々の国に対する意識にも大きく影響することが明らかになった.

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© 2011 日本社会学会
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